アリババの処罰から、独占禁止法の動きを見る
2020. 12. 21
アリババの処罰から、独占禁止法の動きを見る

シニアパートナー弁護士 張駿
12月14日、中国国家市場監督管理総局(以下「市場監督管理総局」と略称)はアリババ投資有限公司(以下「アリババ投資」と略称)に対よる銀泰商業(集団)有限公司(以下「銀泰商業」と略称)の買収、閲文グループによる新麗メディアホールディングス有限公司の買収、及び深セン市豊巣ネット技術有限公司による中郵智遞科技有限公司の買収が、法に基づいて経営者集中申告をしていないとして、3件に対し、「独占禁止法」に基づいて買収3社にそれぞれ50万元の罰金処分を下した。3事件は、経営者集中に関する当局の最新の法運用姿勢を反映している。
3件の行政処罰決定書によると、経営者集中に関わる申告基準に達したにも関わらず、買収が事前申告義務を履行しなかったため、経営者集中を違法に実施したと認めた。アリババ投資による銀泰商業の買収では、2014年3月から2017年6月までの間、アリババ投資は銀泰商業の株式を数回に分けて買収した結果、73.79%の保有比率で、銀泰商業の支配株主となった時点で、独占禁止法第20条の要件に該当した(株式取得による支配権の取得)。その後、アリババ投資が保有する銀泰商業の持ち株割合はさらに上昇した。また、2016年の資料によると、アリババ投資の世界の売上高は1011億4300万元、銀泰商業の世界と中国の売上高はいずれも59億8400万元で、国務院の「経営者集中の申告基準に関する規定」第3条に規定された経営者申告基準を満たしており、申告すべき状況に属する。そのため、アリババ投資は事前申告義務を履行せず、経営者集中を実施したため、市場監督管理総局による行政処罰を免れない。
もっとも、「独占禁止法」第48条によれば、規定に違反して経営者集中を実施した経営者には、50万元以下の罰金を課するほか、集中前の状態に回復する措置をとるよう命じることができる。しかし、今回の3件では、取引がいずれも白紙に戻されてはいない。これについて、市場監督管理総局独占禁止局は、本件では競争を排除し、制限する効果がない上、原状回復になれば、企業の運営に多大な影響が出かねないとの考えを示した。最高額の罰金を決めながらも、米国電話電報会社(AT&T)に対する分割というような究極の手段を温存しておこうという配慮もうかがわれる。
3事件に対する処分は、中国の独占禁止法当局が、経営者集中を含む独占禁止により厳しい姿勢で臨むシグナルと読んで良い。経営者集中を予定しているが、申告の必要が判断できない場合、3事件と同じような事態を回避するために独占禁止申告前協議メカニズムを利用して、市場監督管理総局独占禁止局と相談した方が望ましい。なお、経営者集中にとどまらず、市場競争にさらされる以上、独占禁止に関するコンプライアンスを重視し、独占協定や支配的地位の乱用などの独占行為を慎まなければならない。
12月11日に開かれた中国共産党中央政治局の会議では、今後、独占禁止を強化し、資本の無秩序な膨張を防ぐことを強調している。これは、今後中国の独占禁止の立法と運用で、強化が必至であると中国の与党が発信した強いシグナルである。立法の面から言えば、市場監督管理総局が2020年初めに「独占禁止法」の改正案を公布したことからすれば、「独占禁止法」の改正が大幅に加速することは排除できない。市場監督管理総局は各事件にあたり、独占禁止の法運用を強化するほか、運用の根拠となる法律文書の制定を進めている。すでに「独占禁止協議暫定規定」、「市場支配的地位乱用禁止の暫定規定」、「経営者集中審査暫定規定」に加え、「経営者独占禁止コンプライアンスガイドライン」など5部のガイドラインを策定するとともに、「プラットフォーム経済領域に関する独占禁止ガイドライン」も策定中である。そのため、すべての企業は、独占禁止に対し、十分なな関心を持ち重視し、関連する情報をタイムリーに把握し、行政処分を受けないように必要な対応措置をとることを勧める。