遺伝子組換え食品の表示をどうするか?

2026. 8. 6

遺伝子組換え食品の表示をどうするか?

Q:遺伝子組換え食品の表示をどうするか?

   A:中国における遺伝子組換え作物の商業化は、生態系安全から食品安全との両立へと、規制管理の重点がシフトしてきた経緯がある。2000年代の最初の十年間は遺伝子組換えによる害虫抵抗性綿花の普及が中心で、規制の焦点は遺伝子フローが生態系に及ぼす影響の管理に置かれていた。2021年になって遺伝子組換えトウモロコシと大豆の試験的商業栽培が正式にスタートし、複数の品種が農業農村部の安全証書を取得して食品サプライチェーンに組み込まれるようになった。これを機に、食品安全面での制度整備が喫緊の課題として浮上した。

   遺伝子組換え食品に対して最も根強い懸念は、害虫抵抗性作物が産生するBtタンパク質の人体への影響である。現在の科学的知見によれば、Btタンパク質が特定の害虫に致死的に作用するのは、それら害虫の腸管細胞にBtタンパク質と結合する特異的な受容体が存在するためであり、ヒトの腸管細胞にはその受容体がない。すなわち、人体内ではBtタンパク質が毒性を発揮するための構造的な前提がそもそも欠けているのである。しかし、科学的知見には限界があるかもしれない。「虫が死ぬなら人体にも有害なはずだ」という直感的な思い込みが、いまなお中国の消費者の間に根強く残っているのが実情である。

   一、中国における遺伝子組換え食品表示制度の現状

   消費者が自ら口にする食品について知る権利は正当な権益であり、当然に保護されるべきものである。この観点から中国では強制表示制度を設けている。

   法令の体系を整理すると次のとおりになる。まず、「食品安全法(2025年改正)」第69条で、遺伝子組換え食品の製造・販売にあたっては規定に従い目立つ形で表示しなければならないと定めている。「食品安全法実施条例(2019年改訂)」第33条では具体的な表示方法は国務院の関係部門が定めると規定している。「農業遺伝子組換え生物安全管理条例(2017年改訂)」第8条では、農業分野の遺伝子組換え生物に対して国が表示制度を実施するという基本原則を確立している。実務上の運用については、農業農村部による「農業遺伝子組換え生物表示管理弁法(2017年改訂)」第3条で、表示管理目録に掲載されかつ販売に供される農業遺伝子組換え生物については、表示が義務付けられるとし、表示を行わない場合、または規定どおりに表示しない場合には、輸入・販売のいずれも認められないと明確に定めている。

   具体的な表示方法については、同弁法第6条が三つの場合には分けて規定している。

   第一に、遺伝子組換え動植物およびその微生物産品については、「遺伝子組換え××」と直接表示する。第二に、遺伝子組換え農産物の直接加工品については、「遺伝子組換え××加工品(製成品)」または「加工原料は遺伝子組換え××」と表示する。第三に、遺伝子組換え原料を使用して製造されたものの、最終製品中に遺伝子組換え成分が残存しないか検出されない製品については、「本製品は遺伝子組換え××を原料として製造されているが、本製品中にはすでに遺伝子組換え成分は含まれていません」またはこれと同等の説明を表示しなければならない。

   この制度の核心にある考え方はシンプルだ。最終製品に遺伝子組換え成分が残っているかどうかにかかわらず、製造過程で遺伝子組換え原料を使用した以上、その事実を消費者に伝えなければならないということである。いわば「製品と製造過程の双方を射程に入れた」監視アプローチであり、消費者の知る権利をもっとも幅広く保護する仕組みといえる。

   二、表示制度がもたらす市場への影響

   厳格な強制表示制度は消費者の知る権利を守る一方で、市場に対して看過できない負の影響をもたらしている。データによれば、表示制度の導入後、遺伝子組換え食品を買いたくないと応える中国の消費者の割合は急増し、その後も高止まりが続いている。科学的な説明が伴わないまま「遺伝子組換え」の表示だけが目に入れば、消費者がそれを危険のサインと受け取るのは無理もない。こうした認識のずれは企業の研究開発意欲を削ぎ、産業全体の発展を下押しする要因にもなっている。

   さらに問題をこじらせているのが、一部の事業者による「非遺伝子組換え」表示の販促利用だ。消費者の警戒心を逆手に取り、「遺伝子組換え不使用」「非遺伝子組換え」といった文言を売り文句としてパッケージに打ち出すケースが後を絶たない。2020年に公表された「食品表示監督管理弁法(意見募集稿)」第32条では、遺伝子組換え原料を使用していない食品であっても「遺伝子組換え不使用」「非遺伝子組換え」またはこれに類する表現を表示内容として使用することを明確に禁じていた。しかし、この弁法は現時点でも正式に施行されておらず、市場にはこうした表示がいまなお横行している。

   三、日本における遺伝子組換え食品表示制度

   日本では「カルタヘナ法」に基づいて遺伝子組換え生物の規制が行われているが、その判断基準は製造過程ではなく、最終製品に外来核酸が検出されるかどうかに置かれている。判断の流れは二段階だ。まず、製造過程において他の生物の核酸が導入されたかどうかを確認する。導入されていなければ、そもそも遺伝子組換え生物には該当しない。導入されていた場合は、次に最終製品中に外来核酸が残存しているかどうかを判断する。残存している、または不明な場合は遺伝子組換えとして規制対象となるが、残存していないことが確認できれば、遺伝子組換えとは扱われず、表示義務も生じない。最終製品の実態を基準とする、いわば「製品導向型」の規制ロジックだ。

   両国の根本的な違いを一言で言えばこうなる。遺伝子組換え原料を使って製造されたものの、最終製品には遺伝子組換え成分が残っていない食品について、中国は表示を義務付けるが、日本は義務付けない。日本は規制の境界線を製品の実際の検査結果に引くことで、「遺伝子組換え原料を使った=製品にリスクがある」という消費者の短絡的な連想をある程度遮断している。市場への影響が相対的に小さく、企業にとって使いやすい制度設計といえる。

   四、企業が押さえておくべき実務上の注意点

   中日両国の遺伝子組換え食品表示制度の違いは、すでに司法の場で具体的な摩擦を生んでいる。日本から輸入された菜種油およびトウモロコシを原料とするビールについて、中国国内の消費者が遺伝子組換え表示義務違反として申告したケースがある。裁判所は申告の根拠が不十分であるとして、これを退けた。具体的には、問題となった食品が遺伝子組換え生物であることを示す証拠はなく、また輸入業者が提出した輸入貨物検査検疫証明書(原本)等の書類から、当該食品が中国の検査検疫機関による検査に合格した適法な輸入食品であることが認定された。

   表面上、こうした案件は証拠不十分という形で決着するが、企業として理解しておくべきは、中日両国の遺伝子組換え食品に関する規制の違いそのものだ。日本法に基づいて製造され適法に輸入された製品については、中国法がその海外での製造過程を追跡する手段を現時点では持っていない。ここに規制の空白が生じる余地がある。ただし、この空白はあくまで輸入品に関する話であって、中国国内で生産・加工を行う企業には該当しない。外資系企業であっても、中国国内で製造・加工を行う以上、中国の遺伝子組換え表示規制に完全に従う義務を負う。その一方で、「遺伝子組換え」という表示が中国の消費市場においてなお否定的な印象を与えかねないという現実もある。コンプライアンス上の義務を果たしつつ、ビジネス上の影響をどう折り合わせるか——その判断は、最終的には企業自身に委ねられている。
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