上海戸籍取得後に退職した労働者は会社に賠償する必要があるか?

2026. 5. 19

上海戸籍取得後に退職した労働者は会社に賠償する必要があるか?

Q:労働者が使用者による戸籍取得支援などの特別待遇を受け、勤務期間を定めたにもかかわらず期間満了前に退職した場合、損害賠償責任を負うか。また、賠償額はどのように認定されるか。

   A:労働者が契約違反をした場合には損害賠償責任を負わなければならない。具体的な賠償額は諸事情を総合的に考慮して法に基づき査定される。

   従来の観点では、「中華人民共和国労働契約法」の規定上、使用者が専門的研修費用を提供した場合にのみ、勤務期間および違約金の合意が認められ、かつ違約金額は実際の研修費用を超えてはならないと解されてきた。しかし実務においては、企業は人材の獲得や引き留めを目的として、労働者に対し次のような特別な福利待遇を提供していることが多い。例えば、大都市における戸籍取得支援、住宅補助、自動車購入ローン支援、株式インセンティブ等の特別待遇を提供し、同時にその引き換えとして、労働契約において勤務期間および違約金を定めている。もしもこうした合意の効力を一律に否定するのであれば、公平公正の原則に反することになる。そこで最新の司法解釈及び裁判例によって、がこれらの争点に対する相応の裁判基準が明確に示されている。

   「最高人民法院による労働争議案件の審理に適用する法律問題に関する解釈(二)」の第12条により、使用者が労働者と勤務期間を合意し、かつ特別待遇を提供したにもかかわらず、労働者が合意に違反して期間満了前に労働契約を解除し、また労働契約法第38条に定める労働者が一方的に解除できる事由に該当しない場合、使用者が損害賠償の負担を求めたときに人民法院は、実際の損失および当事者の過失の程度、既に履行された勤務期間等の要素を総合的に考慮し、労働者が負担すべき損害賠償責任を裁定することができると規定された。

   上記の法律適用規則および裁判基準は、すでに全国各地で多くの先例があり、2026年に上海市第二中級人民法院と上海市人力資源社会保障局が公表した「労働争議紛争における裁判仲裁連携強化に関する十大典型事例」の事例一でも、さらに裏付けられている。

   当該事例では、労働者と会社が締結した勤務期間に関する合意は、双方の真意に基づくものであり、その内容は法の強制規定に違反せず、適法かつ有効であって、双方に対して法的拘束力を有していると認定した。会社は臨港新片区の重点機関で、人材導入制度を通じて労働者のために上海常住戸籍の取得手続を行い、特別待遇を提供した。労働者は戸籍取得日から3年間の勤務を承諾したにもかかわらず、戸籍取得後わずか半年余りで自主退職した。そのため裁定では、労働者の行為は勤務期間の約定および誠実信用の原則に明らかに違反するものであり、使用者に対して実際の損失を生じさせたものであるため、損害賠償責任を負うべきであるとした。

   賠償額については、当事者間で約定した20万元をそのまま認定せず、「合理的補償・比例的賠償・過失相当」の裁判基準に準じ、以下の要素を総合的に考慮して算定した。

   会社が労働者の戸籍取得のために投入した人的・物的・資源的コストおよび信用提供
  • 労働者が既に履行した勤務期間
  • 労働者の過失の程度
  • 労働者の収入状況
  • 使用者の実際損失、機会損失および信用への影響
   以上を踏まえ、上海仲裁委員会は最終的に、当該労働者に対して会社へ15万元余りの損害賠償を支払うよう命じた。

   この典型事例の公表は、労使双方の権利義務の境界を明確化する指針となる。同時に、戸籍取得を伴う人材導入に関する企業の労務コンプライアンス管理に対して、より高い水準を求めるものとなっている。

   以上を踏まえて、企業が検討すべき点として以下の対応を提言する。まずは、人材優遇に関する社内規程を整備し、戸籍取得型人材導入の手続、勤務期間の長さ、途中退職時の賠償基準等の重要条項を明確化し、社内ルールと司法判断基準との整合性を確保すること。次に、人材導入や戸籍取得手続といった重点的な労務管理分野に焦点を当てたコンプライアンス研修を実施し、誠実履行義務に対する従業員の意識を高め、契約違反の法的責任を明確に周知させること。さらに、戸籍取得手続に関する資料保存、コスト算定および証拠管理体制を整備し、戸籍取得支援の過程における人的投入、資源調整、契約締結等に関する証拠資料を適切に保管することが重要である。
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