IST(産業主導治験)で患者が死亡したら誰の責任か?

2026. 4. 1

IST(産業主導治験)で患者が死亡したら誰の責任か?

Q:IST(産業主導治験)で患者が死亡したら誰の責任か?

【事例】

   江蘇省蘇州市中級人民法院が審理した臨床試験における医療損害責任をめぐる紛争事件。被験者である羅某は、甲社と乙病院が共同で実施した細胞治療の臨床試験に参加していた期間に病死した。この事例で裁判所は、甲社と乙病院が共同で70%の賠償責任を負うと判決し、羅某の遺族に70万元余りを賠償し、同時に受領していた20万元の試験費用を全額返還するよう命じた。

   羅某は「多発性骨髄腫」を患っていた。羅某は、甲社と乙病院が共同で行う悪性腫瘍に対する細胞治療の臨床試験に参加するため、甲社が用意した臨床研究のインフォームド・コンセント文書に署名し、その後10回にわたり乙病院に入院して治療を受けた。2020年3月、乙病院で入院治療中に病状が悪化したと認められた。甲社の法定代表者の李某および乙病院の勧めにより、羅某は細胞治療と化学療法の併用治療を受けたが、その後強い副作用が現れ、転院して治療を続けたものの効果はなく、2020年4月に死亡した。治療期間中、家族は試験費用を支払っていた。2023年末、遺族は甲社および乙病院に対し、試験費用の返還および死亡による損害として100万元余の賠償を求めて提訴した。

   裁判所は、第一に、乙病院による羅某への治療は、倫理委員会の承認を受けた研究計画に従っていないと認定した。第二に、羅某が署名したインフォームド・コンセント文書は倫理委員会の審査を経ておらず、かつ試験依頼者の責任を免除する内容は「人を対象とする生物医学研究倫理審査弁法」に違反すると判断した。また、乙病院の入院記録からインフォームド・コンセント文書の説明内容も不十分であったと認定した。さらに、研究者が規定どおり研究進捗報告を提出せず、倫理委員会も追跡審査を行っていなかったため、本件臨床試験は適切な管理を欠いていたとされた。これらの過失と羅某の死亡との間には因果関係があると認定された。ただし、羅某自身の疾病が重篤であったことも死亡原因の一つであるとして、最終的に両被告に70%の賠償責任があると判断した。

【分析】

   本件は、典型的なIST臨床試験において患者が死亡したことに伴う損害賠償事件である。IST(Industry-Sponsored Trial)とは、製薬企業が主体となって実施する臨床試験を指し、自社の新薬や新しい治療製品を上市させることを目的として行われる臨床試験である。

   ISTは目的が明確であり、薬品の上市を目指す臨床試験で、「薬物臨床試験品質管理規範」第11条第1項によれば、臨床試験とは、人体(患者または健康な被験者)を対象として行われる試験であり、試験薬の臨床医学的、薬理学的及びその他の薬効作用や副作用、または吸収、分布、代謝、排泄を確認し、薬の有効性および安全性を明らかにするための体系的な試験である。「薬品登録管理弁法」第21条によれば、薬物臨床試験は第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相、第Ⅳ相の臨床試験および生物学的同等性試験に分けられる。薬品上市前には第Ⅰ相から第Ⅲ相までの試験を実施する。ISTは新薬の安全性および有効性を確認するために、上市登録前に必ず実施しなければならない法定要件である。また、上市後に適応症(または治療機能)を追加する場合にも、改めてISTを実施する必要があるとしている。

   ISTは製薬企業から提起するもので、法律上では「治験依頼者(申辦者)」と称される。ISTに対する監督は主として国家薬品監督管理局が製薬企業に対して行い、薬品管理法およびその実施細則、薬物臨床試験品質管理規範などを根拠法とする。

   ISTを実施するには、資格を有する病院およびその医療チーム、すなわち研究機関および研究者を確保する必要がある。ISTは大きなリスクを伴うため、人を対象とする生物医学研究については、医療機関は規定に従い倫理委員会を設置しなければならない。倫理審査に関しては「人を対象とする生物医学研究倫理審査弁法」(2016年10月12日公布、2016年12月1日施行)に準拠し、研究者は、その研究プロジェクトまたは研究方案が倫理委員会の承認を得た後にのみ研究を開始することができる。また、研究過程で重大な副作用や重大な有害事象が発生した場合には、速やかに倫理委員会へ報告しなければならないとしている。

   ISTでは、臨床試験の後期段階において治療製品を患者、すなわち被験者に使用することになり、必ず被験者からインフォームド・コンセントを取得しなければならないが、例外として、次のいずれかの場合に限り、倫理委員会の審査・承認を経たうえで同意書への署名が免除できる。(1)個人を識別できる人体試料またはデータを用いた研究で、当該被験者をもはや特定できず、かつ研究内容が個人のプライバシーや商業的利益に関わらない場合。(2)生体試料の提供者がすでにインフォームド・コンセントに署名し、提供した試料および関連情報をすべての医学研究に使用することに同意している場合。児童が臨床試験への参加について自ら判断する能力を有する場合には、本人の同意を得る必要がある。児童が不同意で監護者が同意している場合には、原則として児童の意思を尊重すべきとしている。

   ISTは製薬企業が主導するもので、製品を上市するために実施する臨床試験である。試験計画の策定、資格を有する病院の選定、患者募集、被験者の反応の記録・監視、試験データの整理、薬品監督管理当局への申請対応など、多くの専門的かつ煩雑な業務を伴うものである。製薬企業が自らすべてを行うことは負担が大きく、手続の不備が生じるおそれもある。このため、製薬企業は専門のCRO(Contract Research Organization)と契約を締結し、これらの業務を委託することが一般的であり、いわばISTにおける専門的な管理役を置く形となる。

   ISTにおいて被験者の生命・健康に被害が生じた場合、誰が責任を負うのか。臨床試験中に有害事象が発生した場合、まず医療機関が被験者に対し必要な治療および処置を行い、そのうえで、試験に関連する損害については、医療機関自身の過失と被験者自身の疾病進行による部分を除き、製薬企業が治療費および相応の補償または賠償を負担することになる。第一に、製薬企業は治験依頼者としてISTにおける主要な法的責任を負う。ここで注意すべきことは、その責任は賠償責任に限られないということである。「薬物臨床試験品質管理規範」第43条は、「治験依頼者は臨床試験に参加する被験者のために保険に加入し、試験に関連して生じた損害または死亡について、治療費および相応の経済的補償を負担しなければならない」と規定している。第二に、医療機関に過失がある場合には、医療損害賠償責任の範囲内で医療機関が法的責任を負うことになる。以上により、被験者側は具体的事情に応じて、製薬企業に責任追及するか、医療機関に責任追及するか、あるいは双方がそれぞれの責任部分について負担すべきとして両者に対して責任を追及するかを判断することになる。

クライアント
専用ログイン

ユーザーIDとパスワードを入力してください。 ご質問がございましたら、弊所の顧客担当にご連絡くださいますようお願い致します。