地政学的な要因はどのような国際決済手段を推し進めているか?
2026. 1. 15
地政学的な要因はどのような国際決済手段を推し進めているか?

Q:地政学的な要因はどのような国際決済手段を推し進めているか?
A:今日、世界の地政学的な環境は複雑化し、国際的な決済方式は未曾有の挑戦と変革に直面している。伝統的な決済システムではまずいと考えた各国が、代替する新しい決済ルートを次々と作り出し、デジタル技術を使った新たな金融の形を模索している。特に大きな経済力を持つ国々は、デジタル決済の主導権を握ろうと動いている。その結果、世界の決済システムは一つの方式ではなく、多様な方式が出てきている状況にある。
アメリカは、デジタル金融分野で戦略的な取り組みを続けている。2025年1月23日、トランプ大統領は大統領令14178「デジタル金融技術テクノロジーにおけるアメリカのリーダーシップの強化」(Executive Order 14178: Strengthening American Leadership in Digital Financial Technology)を発令し、デジタル資産の備蓄に関する戦略構想を打ち出した。この動きは、デジタル金融時代においてもアメリカの主導的な立場を守るためのものである。これは、現代のデジタル資産が、かつての工業時代における石油と同じくらい重要な戦略的価値を持っていることを示している。
これに対してEUも迅速な動きを見せている。欧州議会の経済・通貨委員会(ECON)からの要請を受け、EUは2025年6月に「米国のデジタル資産戦略と欧州の対応」と題する政策提言書(Monetary Dialogue Papers: US Digital Asset Strategy and the European Response)を公表した。この文書では、欧州の通貨主権を前面に打ち出すとともに、米ドルと連動したステーブルコイン(dollar-backed stablecoins)がもたらす影響に備えて、ユーロの法的な位置づけを強化し、暗号資産に対する規制の枠組みを整備していく方針を明らかにしている。
このような状況の中、中国も通貨主権を重視する戦略のもと、独自の動きを見せている。具体的には、国境を越えた人民元決済システム(Cross-border Interbank Payment System, CIPS)や中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency, CBDC)といった最新の金融インフラを整備し、世界の決済システムの革新に積極的に関わっている。これらの決済システムは、国際貿易に携わる企業に新たな選択肢を提供している。実際、中国と世界各国とのビジネスにおいて、その効率性と安定性が高く評価されている。
1.人民元の独自決済ネットワーク
これまでの国際決済は、主にSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)による通信サービスと、CHIPS(Clearing House Interbank Payment System)による米ドルの決済に依存してきた。ところが最近の世界情勢を見ると、たとえば2023年10月1日からロシアがSWIFTの利用を制限されるなど、従来の決済システムが政治的な影響を受けやすい弱点が浮き彫りになっている。そのため、世界中の取引関係者は、一つの決済システムへの依存度を下げようと、新たな決済手段を積極的に模索している。
このような状況の中、中国人民銀行が独自に開発したCIPSシステムが注目を集めている。2015年の第一段階の運用開始、2018年の第二段階でのアップグレード以降、CIPSは人民元の国際決済における主要なチャネルとなっている。「人民元が使われる所には必ずCIPSを」という考えのもと、現在では180以上の国と地域をカバーし、SWIFTに依存しない独立した決済の選択肢を提供している。
実際の取引でもCIPSの活用事例が増えている。2023年6月には、中国海洋石油集団とフランスのトタルエナジーズが、上海石油天然ガス取引所を通じて、LNG(液化天然ガス)の輸入代金としてCIPSを使って人民元で決済した。これはエネルギー取引における新しい決済方式の先駆けとなった。さらに2025年7月には、四川省で初めてCIPSを使った外貨決済が実現し、東方電気集団財務会社が、アゼルバイジャンのゴブスタン太陽光発電プロジェクトのサービス料4.47万ドルの支払いを行った。これらの事例は、CIPSが国際取引をより円滑にする実用的なツールとして機能していることを示している。
2.デジタル通貨による決済手段
中国はCBDCの開発を着実に進めており、デジタル形式の法定通貨を提供することで、国際決済での存在感を高めている。複数の中央銀行が参加するmBridgeプロジェクトでは、中国は香港、タイ、UAE、サウジアラビアなどと緊密に協力している。2025年11月時点までの実績によると、このプロジェクトでデジタル人民元を使った海外との取引は4,047件、金額にして3,872億元にのぼり、全体の95.3%を占めている。
デジタル人民元のさらなる発展を目指し、2025年9月24日、デジタル人民元国際運営センターが業務を開始した。このセンターでは、「国際デジタル決済プラットフォーム」「ブロックチェーンサービスプラットフォーム」「デジタル資産プラットフォーム」という3つの主要サービスを展開している。このセンターは上海に業務拠点を置いている。2025年10月には、中国人民銀行が北京にデジタル人民元運営管理センターを設立し、デジタル人民元システムの構築・運用・保守を一括して担当することになった。2025年12月29日、中国人民銀行は「デジタル人民元の管理サービス体制と金融インフラ整備の強化に関する行動計画」を発表し、デジタル人民元は新たな段階に入った。2026年1月1日からは、新世代のデジタル人民元の計測フレームワーク、管理体制、運用メカニズム、そしてエコシステムが本格的にスタートする。これにより、デジタル人民元はデジタル現金からデジタル預金通貨へと大きく進化し、国際決済手段としての機能も一層充実することになる見込みである。
3.仮想通貨の法定通貨としての流通を禁止
仮想通貨による決済システムは、世界各国でさまざまな形で受け入れられている。最近の地政学的な圧力も、一部の国での仮想通貨に対する姿勢の見直しに拍車をかけている。例えば、2023年10月以降、SWIFTの利用制限に直面したロシアは、国際決済手段の多様化を図るため、仮想通貨に関する政策を見直している。
しかし、中国は仮想通貨取引に対して厳格な規制方針を維持している。外国為替管理条例(第30条、第45条)および個人外国為替管理規則(第30条)では、指定金融機関以外での外貨取引を禁止している。2021年9月24日、中国人民銀行を含む10の政府機関が共同で発表した「仮想通貨取引投機リスクのさらなる防止と対処に関する通知」では、以下の4点を明確にしている。第一に、仮想通貨には法定通貨と同等の法的地位を備えていない。ビットコイン、イーサリアム、テザーなどの仮想通貨は、通貨当局以外が発行し、暗号技術や分散型台帳などの技術を使用し、デジタル形式で存在するものであるが、法的な強制通用力を持たず、市場での通貨としての使用は認められない。第二に、仮想通貨関連の事業活動は違法な金融活動とみなされる。第三に、海外の仮想通貨取引所がインターネットを通じて中国国内の居住者にサービスを提供することも違法な金融活動である。第四に、仮想通貨への投資取引には法的リスクが伴う。
また中国の法執行機関は、仮想通貨取引のリスクを防ぐため、包括的な規制措置を講じている。公安部マネーロンダリング対策局は、仮想通貨のOTC(Over-The-Counter)(相対)取引に対して徹底的な監視を行っており、規制当局は違法の疑いのある取引口座を凍結するなどの措置を取ることができる。こうした取引が、マネーロンダリングや外国為替管理規定違反などの犯罪に該当する場合、関係者は刑事責任を問われることになる1。
以上のように、地政学的な課題に直面する中、世界の決済システムは多様化、技術革新、制度の整備を通じて、そのレジリエンス(強靭性)を高めている。この進化の流れは、国際金融システムの構造を変えていく。企業が国際決済を行う際には、取引相手や取引の性質などを慎重に検討し、コンプライアンスを守りながら効率的で、かつリスクを適切に管理できる決済手段を選ぶことが重要である。
1.参照:「国内外の口座間での「並行入金」の法的リスクについて | ダン・リーグQ&A」日中サービスネット2025年8月13日。

