退職した社員への企業年金の支給を中止できるか?

2025. 11. 6

退職した社員への企業年金の支給を中止できるか?

Q:退職した社員への企業年金の支給を中止できるか?また、関連する紛争は労働仲裁になるのか?

   A:支給を中止することはできない。企業年金の個人口座に積み立てられた資金は従業員の私有財産に属するもので、使用者にはこれを無断で減額する権限がない。また、これに関する紛争は一般的に労働争議仲裁の受理範囲には含まれない。

   企業年金とは、企業と従業員とが自主的に設定した養老保険を補充する制度である。「企業年金弁法」では、基本養老保険の基礎の上に、企業と従業員が共同で拠出することにより設立されたものであることが示されている。企業年金の個人口座に積み立てられた資金(企業拠出分として個人口座に計上された部分及びその運用収益を含む)は、法令により従業員に帰属するものであり、従業員が法的に享有する財産権益でもある。従業員は、法定退職年齢に達した場合などに、本人の企業年金個人口座から、月次、分割又は一括のいずれかの方式で受給することができる。企業には、個人口座に係る資金に対して、その一部の権益を「留保」又は「凍結」するよう主張する権限はない。同様に、企業は従業員との間にその他の紛争が存在することを理由として、企業年金の支給手続きを恣意的に中止したり、介入したりすることも許されず、さもなければ、労働者の合法的な権益を侵害したことになる。

   更に、企業年金基金は、委託者、受託者、口座管理者、投資管理者、カストディアン及び企業年金基金の管理にサービスを提供するその他の自然人、法人、その他の組織が所有する自己資産やその他資産と分けて管理しなければならず、他の用途に流用してはならないと規定されている。したがって、もしも企業が企業年金基金を無断で他の用途に流用した場合には、企業は相応の法的責任を負うことになる。

   企業年金基金の管理契約に関する紛争が生じた場合について、「企業年金弁法」では当事者は仲裁又は訴訟を提起できると規定している。また、企業年金に係る権利の根拠は労働契約ではなく年金プランによるものであるため、労働人事争議仲裁の範囲には含まれず、当事者は、年金基金管理契約に基づき、仲裁又は裁判所へ訴訟を提起することができると規定している。

   実務においては、(2025)蘇12民終560号の判決において、委託者である使用者が、受託機構に対して従業員呉氏の企業年金を無断かつ一方的に停止するよう要求したことは、呉氏の合法的な権益を侵害するものとされた。そのため、裁判所は、使用者に対して残余の企業年金給付プランを継続して履行するよう判決した。

   この点において、企業年金を管理するうえで使用者が注意しておくべきことは、以下の点になる。

   1. 法令に従って企業年金を給付し、不当な「制限」又は「差し押さえ」を行わないこと。
   企業年金の個人口座に積み立てられた資金は従業員の私有財産に属するものであり、内部紛争やその他の経済往来を理由として、事実上の凍結を行ってはならない。従業員が給付要件を満たしたならば、企業年金口座の資金は法令に従って、適時かつ不足なく支給しなければならない。

   2. 委託関係を明確化し、主体責任を押し付けてはならない。
   企業年金の実際の給付が受託機構によって執行されるとしても、委託者であり、支払主体である企業には、依然として給付義務がある。

   3. 企業が経営損失、再編、合併等により当期の拠出を継続てきない状況に至った場合であっても、拠出を中止するには従業員側との協議を経なければならない。拠出できない事由が解消した後には、企業及び従業員は拠出を再開し、企業の実情に合わせて拠出中止時の企業年金プランに基づき、実際の拠出期間及び金額を超えない範囲で補填拠出することができる。
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