協議の上、労働契約を解除した後、従業員が更に異議を申し立てるのは可能か?

2025. 4. 29

協議の上、労働契約を解除した後、従業員が更に異議を申し立てるのは可能か?

Q:当社は既にある従業員と合意の上で労働契約解除協議書に調印し、また、従業員の退職時に一括で10万元を支払うことを条件として合意した。退職手続きの完了および補償金の支払い後、この従業員は再び経済補償金の算定に誤りがあり、残業代などの項目が含まれていないと異議を申し立てている。この従業員の主張は成立出来るか?

   A:労働契約等の労働関係に基づいて締結された協議書、契約書には特殊性があり、「労働法」、「労働契約法」等の規定を遵守する必要があるが、その本質は民事契約であるため、同様に「民法典」の一般原則に従う必要がある。したがって、当該従業員が関連約定に次の各号に掲げる状況が存在することを証明できない場合、その主張は支持されるべきではない。
1) 法律、行政法規の強制的規定に違反している。
2) 互いに談合し、国家、その他の組織又は他人の合法的権益を損なっている。
3) 違法な目的を合法的な形で隠蔽している。
4) 重大な誤解に基づいて締結されている場合。
5) 会社の詐欺、脅迫、人の危機に乗じて締結している場合。

   具体的には、貴方が述べられている情況は、司法実務においては:
  • 協議合意で締結された労働契約解除合意書であれば、1)の場合は基本的に存在しないと考えられる。
  • 経済補償金の計算だけであれば、2)、3)、5)のような状況はほとんどあり得ない。
  • 協議には経済補償金の金額のみが記載されており、具体的な計算式や計算基数などはなく、実際の金額が法律で従業員に支払うべき経済補償金を下回らない限り、4)の場合も一般的には存在しないと考えられる。

   しかし、経済補償金の額が法律で規定されている支払額を下回っている場合、一定のリスクが存在することは確かである。筆者の経験によれば、仲裁委員会又は法院が使用者側に対してより厳格な責任を課す可能性がある。すなわち、従業員が補償金の金額を告知されたか、又は実際に知りながらも、比較的少ない金額で合意することに同意したことを使用者側が挙証して証明する必要がある。例えば、協議書に、「A社と張氏は、張氏の経済補償金は、その前の12ヶ月の平均賃金と在職年数に基づいて計算すべきであることを確認したが、A社の経済状況が困難であるため、双方が互いに了解し、協議して合意した結果、5万元を基準として経済補償金を支払うことに同意した」と記載する必要があるかもしれない。

   また、ご質問の中で述べられている経済補償金の基数に残業代を含めるかどうかについては、これは地域によって対応方法が異なるのは確かである。例えば上海では、「使用者が悪意をもって正常労働時間賃金に計上すべき項目を残業賃金に計上し、正常労働時間賃金と経済補償金の計算基準を満たす」ことを証明する証拠がない限り、一般的には、残業代を経済補償金の基数に計上しないことができる。労働契約が履行される地域により、現地のやり方と合わせて、それに応じて確認することができる。

Q:我々は協議書に、労働契約解除協議書に署名した後、従業員の在職中の賃金待遇、残業代、有給休暇補償金などが清算され、何の論争もないことを明記している。それでも、従業員が残業代の請求を提示してきたが、この主張は支持されるか?

   A:貴方が述べられているこの問題は、基本原則は実は前の問題と同じです。 ここには重要なポイントがある。それは、従業員が残業手当などの待遇を受けていないことを証明する証拠があるかどうかである。

   これについては、実は人力資源社会保障部、最高人民法院が第二回労働人事争議の典型的なケースを共同発表した通知(人社部函(2021)90号)におけるケース9で問題を容易に説明することが出来る。この事件では、従業員がサインして賃金待遇が決済されたことを確認したが、裁判所は当該従業員の勤務記録、給与、離職申請書など多方面の証拠から総合的に判断して、当該従業員には確かに大きな金額の残業賃金が支払われておらず、当該従業員は真意に基づいて賃金決済された確認書類に署名したわけではなく、裁判所に支持されていると主張した。

   そのため、当該従業員の勤務時間、残業状況、残業承認などの総合的な要素を慎重にチェックを行い、明らかに残業手当が少ない状況があるかどうかを確認する要請があった。

   また、労働契約解除協議書に「双方は、従業員側が在職中の賃金待遇、残業手当などを含む構成、金額、計算方法などに不明な点がないことを確認し、かつこれらの待遇が決済されたことの確認を行い、差額があっても従業員側が放棄して主張しないことに同意する」と規定されている場合や、同様の内容がある場合、従業員も自ら民事権利を放棄できることを考慮して、従業員側が協議に署名した後に再度残業手当などの主張を申し立てしても支持される確率は大幅に低下する。

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