「上海市医薬品・医療機器管理条例」外資系企業への期待と効果
2025. 3. 19
「上海市医薬品・医療機器管理条例」外資系企業への期待と効果

ダン・リーグ法律事務所
日系企業法律サービスセンター
ヘルスケアチーム
于佳佳 弁護士
2025年3月1日より施行される「上海市医薬品・医療機器管理条例」は、中国初の医薬品・医療機器に関する包括的な地方法規として、研究開発から製造、販売、使用までの全プロセスを規制するものです。本条例の施行により、上海市はグローバルな医薬品・医療機器産業における重要な戦略拠点としての地位を一層強化することとなります。また、市民の高品質な医薬品・医療機器へのニーズに応えるとともに、「健康中国」構想の実現を加速させるものと考えられます。
本条例は国際交流・協力の推進についても明確な方針を示しており、総則第10条第3項において「上海市は医薬品・医療機器における国際交流・協力を強化し、研究開発のイノベーションおよび産業の国際化を促進する」と規定しています。以下、本条例の主要な内容に基づき、研究開発・イノベーション、製造、販売・使用等の各側面における外資系企業への効果について解説いたします。
1. 国際的な協力と研究開発イノベーションの促進
本条例では、申請者による国際共同臨床試験の実施を奨励するとともに、臨床試験実施機関に対しても、国際共同臨床試験への積極的な参画を促しています(第12条第3項)。これにより、外資系企業は上海市の充実した医療リソースと臨床研究基盤を活用し、中国国内の医療機関・研究チームと協力して国際共同試験を展開することが可能となります。その結果、より広範な代表性を持つデータの収集が実現し、製品開発から承認申請までのプロセスを加速することができます。
また、倫理審査については、医療機関間の協力体制を構築し、多施設共同臨床試験における倫理審査の連携を推進するとともに、倫理審査結果の相互認証制度の確立を図ることとしています(第15条)。これにより、臨床試験における倫理審査に掛かる時間的負担や重複業務が大幅に軽減されることが期待されます。
2. 輸入通関プロセスのスムーズ化と最適化
バイオ医薬品と医療機器の急速な発展に伴い、原材料の需要が急増することは必至です。そこで条例では、バイオ医薬品の研究開発に係る輸入手続きについて、以下のように定めております。
市商務局が医薬品監督管理局、環境保護局、農業農村局、科学技術局などの関係部門と連携し、バイオ医薬品の研究開発や検査用物品の輸入を円滑に進めるための体制を構築します。これにより、バイオ医薬品の研究開発機関ならびに医薬品・医療機器企業が、国内外で未承認の原材料や化合物、また検査用の微量標準品を輸入する際の通関手続きの最適化・円滑化を図ります(第21条第1項)。
また、市科学技術局は関係部門と連携し、国および市の関連規定に基づき、バイオ医薬品関連の特殊物品の出入国に対する総合的な評価を実施し、その結果に基づき通関手続きの最適化・円滑化を推進します(第 21 条第 2 項)。
これらの制度により、医薬品企業は研究開発段階における物流・通関面での課題が大幅に減軽され、必要な原材料をより迅速に確保することが可能となり、研究開発のスピードも上がることが期待されます。
3. 現地製造の支援
医療機器の登録申請をする者が、既に輸入用か国内の医療機器登録証を所持しており、その医療機器を上海市で製造することを申し込む場合、市医薬品監督管理部門は、関連書類の申告や製造現場の実地調査手続きを最適化し、審査の効率化を図ります(第23条)。これにより、外資系企業が製造拠点を上海に移すことが大変便利になります。企業にとっては生産コストを下げることができ、上海の地元産業との連携ネットワークの利点を生かして、自社製品の競争力を高めることができます。その結果、上海の医療機器産業の集積と発展を促し、完全な産業チェーンの生態系を構築することにつながります。
中国(上海)自由貿易試験区及び臨港新区における医療機器の輸入について、要件を満たしている中国国内代理人は、税関の特殊管理区域内で自らまたは委託により中国語ラベルの貼付および中国語説明書の添付を行うことができ、その際には市医薬品監督管理部門への報告を行うものとしています(第 31 条第 1 項)。この規定は、市医薬品監督管理局が公布し2025 年 1 月 1 日より施行される「中国(上海)自由貿易試験区輸入医療機器の中国語ラベル貼付規定(試行)」と整合性を図っています。
海外で既に市販されている輸入医薬品について、国の規定する条件を満たす商業規模のロットに関しては、市医薬品監督管理部門が医薬品輸入通関文書を発行することができます(第27条第3項)。
4. 海外医薬品の市場参入とコンプライアンス
国の法令の枠組みの中で、市医薬品監督管理部門の管轄区域内において、臨床的に緊急性の高い医薬品およびクラスII・III医療機器の一時的な輸入を着実に実施することとしています。また、医薬品・医療機器企業と医療機関との連携を奨励し、臨床的に少量で必要な輸入医薬品・医療機器についてリアルワールドデータ(RWD)の応用研究を行い、臨床RWDの医薬品・医療機器の登録申請への活用を検討することとしています。これは、外資企業が国内の医療機関と協力し、リアルワールドデータを取得するチャンネルとなる可能性があり、イノベーティブな製品の中国市場への参入機会を促進することにつながります。さらに、税関における医薬品検査機関による希少病薬品の検査用サンプル量の最適化を図り、特殊医薬品の輸入を支援し、外資企業の希少病治療分野における製品の普及・応用を促進することとしています(第37条)。
医療機器の外国登録者等による国内代理人の選定・管理の強化、国内代理人の義務の明確化を図っています。具体的には、医療機器の外国登録者等は国内代理人を指定し、代理人は輸入医療機器製品の台帳作成・記録保存、毎年第 1 四半期における前年度の品質管理システム運用状況の(医療機器の外国登録者の)自己点検報告書の提出など法定義務を履行する必要があります(第38条)。