中国初 軍事販売に関係のない外国実体を「信頼できない実体リスト」に登録
2025. 2. 12
中国初 軍事販売に関係のない外国実体を「信頼できない実体リスト」に登録

弁護士 于佳佳
2025年2月4日、世界のアパレル業界をリードするPVHグループと、遺伝子検査分野の大手企業であるイルミナ社が、中国の「信頼できない実体リスト」に追加されました。これは、中国が台湾地域への武器販売に関与していない外国企業を初めてこのリストに登録したことで、注目に値します。
1. 信頼できない実体リスト制度
中国は、国家主権や安全、発展利益を守り、公平かつ自由な国際経済貿易秩序を維持し、中国の企業やその他の組織、個人の合法的利益を保護するために、対外貿易法や国家安全法などの関連法律のもとで、商務部が 2020 年 9 月 19 日に「信頼できない実体リスト規定」を公布しました。これにより、中国独自の「信頼できない実体リスト制度」(以下、リスト制度と略称)が誕生したのです。
リスト制度の適用対象は、国際経済貿易やそれに関連する活動の中で、次のような行為に関わる外国の実体(外国企業やその他の組織、個人を含みます)です。(1) 中国の国家主権、安全、発展利益を脅かすこと。(2) 正常な取引原則に反して、中国の企業やその他の組織、個人との正常な取引を中断したり、あるいは中国の企業やその他の組織、個人に対して差別的な措置をとり、中国の企業やその他の組織、個人の合法的な利益を大きく損なうこと 。
リスト制度を具体的に実施するのは、信頼できない実体リスト作業メカニズム(以下、作業メカニズムと略称)です。この作業メカニズムは、商務部単独ではなく、中央国家機関の関係部門が一同になって関与する仕組みです。その事務室は商務部内に設置されています。
2. リストの公表手続き
作業メカニズムがどの外国実体をリストに載せるかを決めるときには、きまった手順を守らなければなりません。
まず、作業メカニズムがある外国実体に着目する方法は主に二つあります。一つは作業メカニズムが自分の職権を使って調べることであり、もう一つは関係者からの提案や告発によるものです。
次に、作業メカニズムは、対象となる外国実体に対して調査を行うかどうかを判断、決定します。
第三に、調査を決めた場合、作業メカニズムは公告を発表します。一般の方は、商務省の公式ウェブサイトにアクセスして、公告の内容を確認することができます。公告の内容は、通常以下のような項目が含まれます。①外国実体の基本情報:外国実体の名称、その実体に着目するに至った経緯、および疑われている行為などが記載されます。②調査に関する事項:当該実体に対して、疑われる行為の有無を証明する資料を指定された期間内に提出することや、調査への協力を求めます。また、調査期間中に当該実体が作業メカニズム事務室に対して意見や申し立てを行う権利があることも明記されます。③社会からの情報収集:どのような団体や個人でも、作業メカニズムに情報を提供したり、関連する証拠を提出したりすることができる旨が記載されます。④作業メカニズム事務室の連絡先:住所やメールアドレスなどの連絡先が掲載されます。
このように、公告を通じて透明性を確保し、広く情報を収集する仕組みが整えられています。
第四に、作業メカニズムは調査結果に基づいて、外国実体をリストに掲載するかどうかを決定し、商務部の公式サイトで公告します。決定を行う際、作業メカニズムは以下の要素を総合的に考慮します。① 中国の国家主権、安全、発展利益を害する程度。② 中国の企業やその他の組織、個人の合法的利益を害する程度。③ 国際的に通行する経済貿易規則に適合しているかどうか。④ その他考慮すべき要素。
3. 既に公表されたリストの状況
リスト制度が始まってから、商務部は6回にわたりリストを順次公表してきました。最初のリストは 2023 年に出され、2024 年にも 1 回公表されました。2025 年に入り、2 月初めまでにさらに4回のリストが公表されています。これまでに合計 27 の外国実体がリストに登録されています。
特に留意すべき点は、これまでのリストに載っている外国実体はすべて台湾地域への軍事販売に関わっていたのに対し、最新のリストでは台湾地域への武器販売に関与していない外国実体が初めて登録されたということです。
その中には、米国の PVH グループがあります。これは男装、女装、子供服や靴類製品を取り扱うアパレルグループです。商務部は 2024 年 9 月 24 日、このグループに対して信頼できない実体リストの調査を始めました。その理由は、同グループが新疆関係の製品について、正常な市場取引の原則に違反し、中国の企業やその他の組織、個人との正常な取引を中断し、差別的な措置をとっている疑いがあるからです。また、イルミナ社は遺伝子シーケンシング分野で有名な米資企業です。商務部は最新の公告の中で、この 2 つの外国実体をリストに登録しました。その理由は、正常な市場取引の原則に違反し、中国の企業との正常な取引を中断し、中国の企業に対して差別的な措置をとり、中国の企業の合法的な利益を大きく損なっているとされるからです。
4. リストに登録された外国実体に対する処置措置
リストアップされている外国実体に対し、作業メカニズムは実際の状況に応じて、1 つまたは複数の処置措置を決定することができます。これらの処置措置は以下のようにまとめられます。まず、次の事項について「制限または禁止」することです。① 中国と関係のある輸出入活動を行うこと。② 中国国内での投資。③ 関係者、輸送手段などの入国。次に、以下の事項について「制限または取消」することです。④ 関係者の中国国内での就労許可、滞在または居留資格。さらに、⑤状況の深刻さに応じて相当な額の罰金を課すこともあり、最後にその他必要な措置を講じることもあります。
一般的に、リストを公表する際には同時に決定した処置措置も公表されます。通常は①②③④の 4 つの処置措置が同時に採られ、場合によっては⑤も加えられます。
注目すべきは、最近のリストにおいて、PVH グループとイルミナ社に対しては、公布内容で「関連法律法規に基づき、上記の実体に対して相当な措置を講じる」と大まかに書かれていることです。
