中国で初の幹細胞治療薬を承認

2025. 1. 13

中国で初の幹細胞治療薬を承認

弁護士 于佳佳

   新年早々、中国の医療分野で画期的なニュースがあった。2025年1月2日、中国国家薬品監督管理局は、中国初となる幹細胞治療薬「アイミマイト注射液」の条件付き承認を発表した。本剤は、主に14歳以上の患者を対象とし、消化管に症状が出る急性移植片対宿主病(aGVHD)の治療に使用される。とりわけ、従来のステロイド療法で効果が得られなかった患者に対する新たな治療選択肢として期待が寄せられている。

   この承認を機に、中国における幹細胞治療薬の規制について概観したい。

一、規制の仕組み
   日本と中国では規制の仕組みに大きな違いが見られる。日本では二つの法律による「二本立て」方式を採用している。具体的には、「再生医療等製品」は薬機法で、「再生医療技術」は再生医療法でそれぞれ規制されている。一方、中国では「一本化」方式を採用しており、幹細胞治療薬は医薬品として承認審査を受けなければならない。2020年に施行された「医薬品承認管理規則」では、医薬品を漢方薬、化学薬品、生物製品などに分類しており、幹細胞治療薬は生物製品として扱われている。
   中国政府は再生医療の実用化を積極的に進めているが、これまで幹細胞治療薬は長く臨床試験の段階に留まっていた。2022年11月22日の時点で、国内で承認された幹細胞治療薬の臨床試験は55件となっている。そして2025年1月2日、画期的な出来事があった。中国国家薬品監督管理局が優先審査制度を使って、中国で初めての幹細胞治療薬を条件付きで承認した。これは、中国の幹細胞治療薬が臨床試験から実際の医療現場での使用へと進む重要な一歩となった。
   さらに、中国の幹細胞産業化における重要な進展として、2024年8月に北京市薬品監督管理局が、中国で初めての幹細胞治療薬の製造許可証を発行した。この許可証の発行により、中国の幹細胞治療は臨床試験段階から事業化の段階へと大きく前進したことを示している。

二、外資系企業の幹細胞医薬品開発と応用への参入
   これまで中国では「外国資本の投資アクセス特別管理措置(ネガティブリスト)」により、ヒト幹細胞の開発・応用分野への外資参入は厳しく制限されてきた。
   しかし2024年9月7日、商務部・衛健委・薬監局が発表した「医療分野における規制緩和の試行に関する通知」により、状況が変わり始めた。これにより、北京、上海、広東の自由貿易区と海南自由貿易港で、外資系企業によるヒト幹細胞に関する研究開発および技術応用まで、幅広い事業活動が可能となった。さらに、薬事承認及び製造許可を取得した場合、その製品は中国全域での使用を認めることとなっている。
   ただし、上記の4地域以外では、依然として全国版の投資規制リストが適用されており、ヒト幹細胞に関する研究開発および技術応用への外資参入は禁止されたままである。このような投資禁止分野では、外資系企業の参入は主に技術提携という形で行われている。技術提携には専門家の交流も含まれている。例として、海南済民博鰲国際病院の国際再生医学研究センターは、2019年8月に日本の厚生労働省から「特定細胞加工物製造認定」を取得した。このセンターには幹細胞実験室があり、国際基準に沿った運営のため、日本人専門家を招いて知識や経験を取り入れている。

三、実務上の課題
   上記の4地域では、外資系企業によるヒト幹細胞に関する研究開発および技術応用が認められるようになったが、実際の運用面ではまだ課題が残されている。
   真っ先に問題となるのは、研究に必要な人体の材料(生体材料)の入手である。遺伝子資源を含む場合、外資系企業が単独でこれらの材料を収集・保管することはできない。研究目的であっても、中国企業・研究機関などをパートナーとして共同で行う必要がある。この規制は自由貿易区内でも例外ではない。そのため、外資系企業が独自に事業を展開することは実質的に難しいのではないかという懸念が出ている。
   また、ヒト幹細胞の安定供給という課題もある。日本では幹細胞を専門的に加工・製造する施設が整備されているが、中国ではまだそのための法整備が十分とは言えない。このような状況の中で、特に重要な法的課題として浮上しているのが、ヒト幹細胞の売買契約がどのような条件で法的に認められるかという問題である。実際、2020年には上海中級人民法院がヒト幹細胞の売買契約を無効とする判決を下した。

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