改正会社法における出資金払込規制への対応

2024. 1. 19

改正会社法における出資金払込規制への対応

Q:現存会社は改正会社法の5年の出資期限にどう対処するべきか?

   改正会社法がさる12月29日に全国人民代表大会常務委員会第7次会議で可決された。7月1日から施行となる同法の第266条によれば、出資期限がこの法でさだめた期限よりも長い現存会社は、法律、行政法規、国務院の別の規定がある場合を除き、この法で定めた出資期限内に変更しなければならない。法人登記機関は異常な出資期限、出資額を定めている企業に対して速やかに変更する旨を命じることができ、その際の実施方法は国務院が規定するとしている。

   同条項では企業を以下の3種類に分類して表記している。
   ①5年の払込期限が適用される2024年7月1日以降に登記される有限会社、
   ②出資期限、出資額が異常な会社、
   ③改正会社法の施行前に設立された出資期限を5年超とする現存会社。

   上記③の会社については、改正会社法で「段階的に調整する」との表現となっていることから、現存会社の出資期限の変更には緩やかな過渡期を設けていると理解できる。とはいえ、過渡期はあくまでも移行期間であって、現存会社も将来的には出資期限を改正会社法が定める会社設立後5年内に変更する必要に直面している。どのように移行が実施されるかは市場監督管理機関による実施細則を待つほかないが、現行法の分析と実務における経験を総合的に踏まえると、以下のようなステップを取る可能性が十分に考えられる。

   現存会社の状況は多種多様である。改正会社法に定めた出資期限の規定により、現存会社は自社の実情に応じて調整する必要があるが、段階的に払い込むことができる会社と、払い込むことができず減資または会社の清算などの登記抹消を考えざるを得ない会社がでてくる。今年6月30日までに出資期限を迎える会社は期日までに全額払い込めば出資期限を変更せずに済むので、本文の対象とはならない。前述の2つの状況の会社については、下記の対応を取るべきであると提案する。

   (一)払い込みできる現存会社
   1. 会社の定款を改正して、出資期限を会社設立日から5年(国務院の実施方法で別に規定が出れば5年後の延長期間内)とする。
   2. 改正した定款が定める期限までに資本金を払い込む。
   3. 同時に、改正会社法の第40条の規定に基づいて、国家企業信用情報公示システムを通じて株主の払込情報を公開する。

   (二)払い込みできない現存会社
   いままでの払込完全引受制度の下では、盲目的または高額な引受額や、長すぎる出資期限等を設定する状況が生じやすく、その中で設定した登録資本金額が高すぎて払込できていないケースが少なくない。これらの会社には、改正会社法が施行する前に減資または会社登記を抹消することが考えられる。

   1.減資
   資本金を短期間内に払い込むことによる株主への財務的な圧力は小さくない。一部の株主が期日までに払い込むことができなければ、法律で定められた減資の手順に従って引受出資額を減らすことが考えられる。
   国家市場監督管理総局が公布した「引受登記制度を改善して秩序ある経営環境を創出する」文書の中で、「国務院が具体的な実施方法を制定するにあたって、調査検討を重ね、事業者の困難に十分な配慮を払い、的を絞った政策を出し、減資手続や書類などを簡素化し、定款の改定を通して出資期限、出資額を合理的に変更するように現存会社を指導する」としている。
   この文中に出資額を変更するという文言があり、現存会社は会社法に基づいた手順で減資できると理解できる。つまり、改正会社法が施行される2024年7月1日までに現行の会社法の減資規定に基づいて、株主の実情に照らして引受出資金を減らしておけば、新しい出資規制に抵触しなくなる。
   参考までに有限会社の減資手続の概要を下記の通り紹介する。
   董事会が減資案を制定⇒株主会で減資を決議⇒株主が実情に応じて減資契約を締結⇒貸借対照表及び資産目録を作成し、債権者に通知し公告する⇒債権者の請求により債務を弁済または担保を提供する⇒会社の定款を改定⇒変更登記を行う。

   2.登記抹消
   例えば、設立されて日が浅くてまだ経営が軌道に乗っていない会社、または長期間の経営難で改善が見込めない会社は、一旦会社をたたむことも一案である。将来、ビジネスの需要が生じた際に新たに会社を登記すればよい。
   一般的な状況において、会社法が定めている市場からの撤退手順をまとめると、次の通り。
   解散及び清算分配と法人登記の抹消を議決した後にそれを公告し、清算チームを組織して清算手続きを開始する。清算中、会社の資産リストを作成し、未納税金、従業員給与、社会保険料などを支払い、債権を回収し、債務を弁済する。清算終了後に清算報告書を作成し、会社登記を抹消した上で、会社の終止を公告する。
   新たに施行する改正会社法の審議の過程で、市場監督管理総局、税関総署、税務総局が昨年「企業抹消指南」を改正した。改正版では、非会社法人、パートナー企業、一人出資会社、農民合作社、個人事業主などの登記抹消に関する内容を新設して、様々な事業者の類型に応じて抹消手続を規定している。
   債権債務が発生していない企業や債権債務を精算済の企業(上場している株式会社を除く)に対しては、下記の簡易抹消手続きの適用が提起されている。
   (1)条件を満たす企業は「一網」システムもしくは国家企業信用情報公示システム上の「簡易抹消公告」欄で簡易抹消登記および出資者全員による承諾などの情報を20日間公告する。
   (2)公告期間内に、利害関係者及び政府部門は企業信用情報公示システム上の「簡易抹消公告」欄で理由を付して異議を述べることができる。公告期間を過ぎた後にシステムは異議を受理しない。
   (3)税務局は、市場監督管理総局から移送された簡易抹消予定に関する情報を入手した後、税務情報システムで納税状況や社会保険料の支払の状態を確認する。

   改正会社法では、株主の出資期限を5年に短縮し、株主に限られた時間内に出資義務の履行を迫り、現存会社に対しては各自の事情に応じて最善の道を選択して穏やかに新制度に移行するようにという課題を突きつけている。もっとも、国家市場監督管理総局が発行した文書では「監督管理部門は抹消および減資の手続をさらに改善する」と明言しているので、現存会社に存在する5年の出資期限の適用問題についても、適切な法規や政策が制定されるものと期待したい。

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