競業制限に経済補償金は必要か?

2023. 8. 16

競業制限に経済補償金は必要か?

   会社が従業員に競業制限義務を課す場合、競業制限義務契約の約定または法定基準を下回らない基準で、当該従業員に経済補償を支払わなければならない。

  • 競業制限とは?
   「労働契約法」で以下の通り規定している。
   第23条:秘密保持義務を負う労働者に対して、使用者は労働契約又は秘密保持協議の中で労働者と競業制限条項を約定でき、かつ労働契約を終了又は解除した後、競業制限期間内に月給に照らして労働者に経済保証金を支給することを約定できる。労働者が競業制限の約定に違反する場合は、約定に従って、使用者に違約金を支払わなければならない。
   第24条:競業制限を適用する人員は高級管理者、高級技術者及びその他の秘密保持義務を負う人員に限る。競業制限の範囲、地域、期限は使用者と労働者が約定し、競業制限の約定は、法律、法規の規定に違反してはならない。労働契約を解除又は終了した後に、前項で規定されている人員が本使用者と同種の製品及び業務を生産又は取り扱っている競合関係にある他の使用者に就職するか、又は自身で開業して同種製品又は業務を生産或いは取り扱ってはならない期間は 2年を超えてはならない。
   上記の規定を簡潔に表現すれば、競業制限とは、秘密保持義務を負う労働者を対象に、使用者が採る商業秘密を保護することを目的とした法的手段であり、事前に合意された競業制限期間内に労働者が競業制限義務を履行する場合、使用者は労働者に経済補償を支払わなければならないということである。

  • 経済補償金の支給基準は?
   「労働契約法」では使用者が競業を制限させるうえで経済補償を支払うべきと明確に規定しているが、競業制限に伴う経済補償基準に関しては明確に規定していない。法律・法規で定める強行規定に違反していないことを前提とすれば、使用者は従業員と競業制限に伴う経済補償基準を約定できる。地方や司法実務によっては、異なる基準が設定されている場合がある。例えば、最高人民法院と上海市高級人民法院はそれぞれ以下の文書を発出している。
   「最高人民法院による労働紛争案件の審理における法律適用の問題に関する解釈(一)」(法釈〔2020〕26号)の第36条では、「当事者間で、労働契約又は秘密保持協議で競業制限について約定しているが、労働契約を解除又は終了した後に労働者へ支払う経済補償基準について約定していない場合に、労働者が競業制限義務を履行し、労働契約を解除又は終了する前12ヵ月間の平均賃金の30%を補償金として月極で支払うように使用者へ要求するなら、人民法院はそれを支持すべきである。前項で規定した労働月間平均賃金の30%が契約履行地の最低賃金基準を下回る場合、労働契約履行地の最低賃金基準に従って支払うものとする」と解釈している。 
   「上海高級人民法院による『労働契約法』の適用における若干の問題に関する意見」(滬高法〔2009〕73号)の第13条では、「競業制限条項に関する当事者間の合意が不明確なときの対処」として「労働契約の当事者間で、労働者が競業制限義務を履行すべきことのみを約定し、労働者に補償金を支払うか否かが明確に約定していなく、又は支払うことを約定しているが具体的な支給基準を明確に約定していない場合でも、当事者が競業制限に合意したという事実に基づき、競業制限条項は依然として両当事者を拘束するものと考えることができる。補償金額が不明な場合、両当事者は補償金の基準について再協議できるが、合意に達しなかった場合には労働者が離職直前に得ていた通常の労働賃金の20~50%を支払わなければならない。競合禁止期間について合意が達成しない場合でも、競合禁止期間は最長2年間を上回ってはならない」と解釈している。
   また、上海以外に、北京、天津、深セン、浙江、江蘇などでも、競業制限の補償基準に関する地方性法規・文書が公布されている。企業が競業制限に関する条項を作成する際には、現地の関連する規定や変化などに特別な注意を払う必要がある。必要の場合には、法律専門家に相談することをお勧めする。

  • 経済補償の支払い時期と期間は?
   「労働契約法」第23条では競業制限補償金を支払う時期について、「労働関係を解除した後、毎月支払う」と規定している。また、関連する規定において、競業制限期間は最長2年を超えてはならないとされている。つまり、使用者は従業員と競業制限の期限について、例えば、6ヶ月、1年、2年など、2年間以内で約定できる。自社の実状や当該従業員の秘密への関与の程度などに応じて、適切な競業制限期間で合意することをお勧めする。

  • 経済補償を支払わないデメリットは?
   「最高人民法院による労働紛争案件の審理における法律適用の問題に関する解釈(一)」(法釈〔2020〕26号)の第38条に、「当事者間で、労働契約又は秘密保持協議で競業制限と経済補償について約定したが、労働契約を解除又は終了した後に、使用者の原因により、3ヵ月間経済補償が支払われていない場合において、労働者が競業制限約定の取り消しと申し立てるならば、人民法院はそれを支持すべきである」と解釈している。
   そのため、使用者が3ヵ月以上にわたって競業制限の経済補償を支払わないでいれば、競業制限の目的自体がふいになりかねない。競業制限は、商業秘密を保護する一種の法的手段である。この手段を活用して商業秘密を保護するには、相応のコストがかかり、すなわち、競業制限期間に使用者が相応の経済補償を支払わなければならない。よって、競業制限協議の作成、締結、執行などにおける様々な要素を十分に考慮して、競業制限協議の効果を最大限に発揮していただきたい。
クライアント
専用ログイン

ユーザーIDとパスワードを入力してください。 ご質問がございましたら、弊所の顧客担当にご連絡くださいますようお願い致します。