経済補償金の月額賃金に割増賃金を含むか?
2023. 3. 10
経済補償金の月額賃金に割増賃金を含むか?

Q: 経済補償金の計算基準となる月額賃金に割増賃金を含むか?
A:経済補償金とは、法的規定に基づき、労働契約の解除時若しくは終了時に、使用者が法により労働者に支払う一時的な経済的な補助金を指す。「労働契約法」第47条により、「経済補償は労働者が本組織に勤務していた年数に基づき、満1年ごとに賃金の1ヶ月分を基準として労働者に支給する。6ヶ月以上 1 年未満の場合は1年として計算する。6ヶ月に満たさない場合には半月分の経済補償を労働者に支払う」「労働者の月額賃金が使用者の所在する直轄市、区を設置する市級人民政府が公布する本地区の前年度従業員平均賃金の3倍を上回る場合、経済補償金は本地区の前年度従業員の月額平均賃金の3倍を基準として支給し、経済補償金の算定年数は最高で12年を超えない」「本条の月額賃金とは、労働者の労働契約を解除又は終了する直前12ヶ月の平均賃金をいう」。
「労働契約法実施条例」第27条ではさらに細かく規定している。「労働契約法第 47 条で規定する経済補償金の月額賃金は、時給若しくは出来高賃金、ボーナス及び手当等の貨幣性収入を含み、労働者が取得すべき賃金に基づき算定するものとする。労働者の労働契約を解除又は終了する直前12ヶ月の平均賃金が当地の最低賃金より低い場合には、当地の最低賃金により算定するものとする。勤務期間が12ヶ月未満の場合には、実際の勤務月数によって平均賃金を算定するものとする」と定めている。
上記の規定によれば、「月額賃金」には割増賃金が含まれると理解すべきであるが、司法実務において実際にはどのように判断されているのかについて、二つの案例を通じて簡単に説明してみたい。
上海地区:割増賃金は含まない
【事件番号】(2021)滬民申137号
王氏は個人的な理由でT社から一方的に不法に労働契約を解除された。王氏は会社が支払うべきの賠償(即ち経済補償の二倍)に割増賃金を含むべきであるとしたが、仲裁・第一審・第二審とも認められなかった。故に、王氏は再審を申し立てた。再審の裁判所は審理の結果「違法な労働契約の解除において、会社は労働者に経済補償金基準の二倍の賠償金を支払うべきである。その計算基数は正常な勤務時間における労働者の労働報酬とする。割増賃金は時間外の労働報酬とみなし、正常な勤務時間における労働報酬ではない」と認定した。従って、再審の裁判所は王氏の再審申し立てを棄却した。
判決根拠
上海高等人民法院による民事における法の適用に関する応答(2013年第1期)の第5条にて、経済補償金の計算基数に割増賃金を含むかについて下記のように解釈している。
第一に、性質からみれば、経済補償は使用者が労働者との労働契約を解除若しくは終了した後に、労働者の損失或いは使用者が担う社会的責任を労働者へ補償するものであるため、経済補償金の計算基数は正常な勤務時間における労働者の賃金とすべきである。第二に、割増賃金は労働者が時間外に労働したことで得た報酬であり、正常な勤務時間内の労働報酬として扱わない。第三に、元労働部『「中華人民共和国労働法」を貫徹するための若干の問題に関する意見』第55条と「労働契約法実施条例」第27条によっても、経済補償金には割増賃金を含まないと考えられる。
北京地区:割増賃金を含む
【事件番号】(2022)京03民終10914号
張氏はP社が賃金の支払いを遅延し、社会保険が未納付であることを理由として、労働契約の解除をP社に提出し、未払賃金及び経済補償金を請求した。張氏は第一審判決による経済補償金の金額に対して異議を唱え、上訴を申し立てた。第二審の審理結果では、経済補償金は、割増賃金を加算して、労働者が離職する直前の12ヶ月の平均賃金で計算すべきであるとして、張氏の主張を認めた。
判決根拠
「北京市高等人民法院・北京市労働人事争議仲裁委員会による労働争議案件の審理における法律適用に関する解答」第21条(4)にて、下記のように解釈している。
労働者が労働契約を解除する直前の12ヶ月の平均賃金には、時給若しくは出来高賃金、ボーナス及び手当等の貨幣性収入を含む。その中には正常な勤務時間の労働報酬以外に、時間外の割増賃金も含まれる。(略)「労働契約法実施条例」第27条で規定した「取得すべき賃金」には、個人が納付する社会保険・住宅積立金・個人所得税が含まれる。
前述の二つの案例から、経済補償金に割増賃金を含むかについて、地域によって司法実務が異なっていることが分かる。それは主に上海と他地域との認識の差異にあると思われる。よって、上海の企業は経済補償金に関わる処理を行う時に、ひとつ多くの選択肢が増えることになる。即ち、経済補償金の計算基数に割増賃金を加算しないというもので、それにより、経済コストを大幅に削減できる。しかし、実施するうえでは注意しなければならない。多くの従業員は経済補償金の月額賃金には割増賃金が含まれるべきと認識しているため、企業が加算しないことを強く主張するならば、労働争議ないしは群体性の争議を誘発しかねない。
故に、かかる問題を処理するにあたり、企業はあらゆる状況を総合的に考慮したうえで、対策を決定することをお勧めする。可能な限り専門家の支援を得ておくことが、経済コストを抑え、、法的リスクを減らすことにつながる。