訴訟?それとも仲裁?商事紛争の解決方法(後編)

2024. 4. 7

訴訟?それとも仲裁?商事紛争の解決方法(後編)

Q:商事契約で約定する紛争解決手段は、訴訟と仲裁のどちらが適しているか?

   A:この前に説明した「訴訟?それとも仲裁?商事紛争の解決方法(前編)」では、商事契約における紛争の解決方法として仲裁を優先的に選択するケースについて説明、分析しました。後編では、商事契約の紛争解決手段を約定する際に訴訟を選択することが望ましいケースについて、商事契約紛争と訴訟手続きの特性に基づいて、私たちの経験を加味しながら整理して分析を試みます。もう一つの解決手段としての訴訟は仲裁よりも身近な手段として知られています。仲裁に機密性、柔軟性があるように、訴訟にも独特の代替不可能な優位性があります。

   訴訟を優先的に選択する場合

1. 約定する権利義務が第三者に関わる契約
   現在、「中華人民共和国仲裁法」は仲裁のプロセスにおいて第三者を追加することの認否を明確に規定していません。しかしながら司法実務では、裁判所が第三者の追加に否定的な態度を示したケースが生じています。一例として、江蘇省連雲港中級人民法院が出した「(2017)蘇07民特2号裁決」を挙げれば、裁判所は「仲裁法第58条により仲裁廷による仲裁判断は、仲裁協議の当事者間の権利と義務に限るもので、仲裁協議の当事者以外の他人の権利や義務について仲裁判断を下すことはできない。当事者が管轄権に関する異議を申し立てた場合には仲裁廷による第三者の追加は越権仲裁判断にあたる」と認定しました。仲裁機関の実務においても、原則として、仲裁案件の当事者ではない者(以下、部外者という)が仲裁案件の当事者と仲裁協議を締結していない限り、第三者として仲裁のプロセスに参加できません。すなわち、部外者または当事者が第三者の追加を申し立てただけで法的に支持されることはありません。また、当事者意思による自治の原則に基づき、仲裁機関または仲裁廷が自ら第三者を追加することもできません。現実として、部外者による仲裁プロセスへの参加は、その部外者が仲裁案件の当事者と仲裁協議を締結した場合にのみ法的根拠を持つことができます。中国の一部の仲裁機関ではすでに仲裁規則の中で第三者の追加について明確に規定しています。例えば、「中国広州仲裁委員会仲裁規則」第23条では、「同一の仲裁協議の部外者が独立請求権のある第三者または独立請求権のない第三者として審理に参加することを申し立てた場合、その承認について、仲裁廷が構成される前の段階であれば広州仲裁委員会が決定し、仲裁廷が構成された後の段階であれば仲裁廷が決定する」と規定しています。以上のように、仲裁プロセスへ第三者が参加できるかについては、法律上の認否問題に直面し、それぞれの仲裁委員会で仲裁規則の関連規定が異なり、現在のところかなり高い不確実性があります。
   これに対して、訴訟プロセスでは、裁判所が、第三者の参加申し立てを受けて、法で定められた管轄権に基づいて職権により第三者を追加させることができます。仲裁廷では仲裁権限が仲裁当事者からの権利付与に由来するものであるために、第三者が仲裁に明示的に参加する意思を示さない限り、仲裁廷が参加を強制する権限を有していないこととは対照的です。さらには、仲裁廷が第三者を追加できると仲裁規則に規定していない場合には越権仲裁判断となり、その仲裁判断が取り消される可能性すらあります。
   そのため、第三者の権利と義務に関わるタイプの契約では、裁判所を管轄機関として選択することが第三者を参加させるうえで有利となり、紛争の合理的な解決を促すことにつながります。例えば、ファクタリング契約や施工契約等の複数の当事者が関与する取引、企業の法人格の透明性が問題となる契約や法人格が独立する可能性がある契約などが該当します。
 
2. 1回の仲裁判断で終結するリスクを避けたい傾向がある場合
   仲裁は1回の仲裁判断で終了する性質を持つため、当事者は不服とする仲裁判断に対して控訴したり、再審を請求したりする権利がなく、また、同一事実に関する論争について再び裁判所に提訴することもできません。当事者としては、仲裁判断が「仲裁法」第58条で定める仲裁判断の取り消しとなる状況が確実に存在すると証明できる証拠を、仲裁委員会が所在する地域の中級人民法院に提出し、審査、検証を経てはじめて、仲裁判断を取り消すことができます。または、「民事訴訟法」第237条および「最高人民法院による人民法院の仲裁判断執行における若干の問題に関する規定(中国語:最高人民法院关于人民法院办理仲裁裁决执行案件若干问题的规定)」に基づき、管轄権を有する裁判所に対して当事者が仲裁判断の執行拒否を申し立てるしかありません。つまり、当事者が仲裁判断の結果に不服がある場合、唯一の救済方法は裁判所に仲裁判断の取り消しを申し立てることしかありません。しかし、さらに注意すべきこととして、裁判所はほとんどの場合、仲裁手続上の問題のみを審査し、実体的な内容部分の審査には関与しません。そのため、紛争解決の方式として仲裁を選択した場合、仲裁判断がすでに形成されている前提下で自身の権利を救済しようとすれば受動的な境地に陥りやすくなります。
   対照的に、裁判所での訴訟は二審終審制を採用しています。当事者が一審裁判所の判決に不服がある場合、控訴することにより二審手続を開始することができ、二審の結果に誤りがあると考えた場合には上級の人民法院に対して再審(上告)を申し立てることができます。また、裁判所は法律が規定している状況においては自主的に再審を進めることもできます。控訴、再審を行う裁判所は手続き的な審査だけでなく、実体的な内容をも審査しますので、訴訟における公正性、合理性が保証されることを期待できます。したがって、紛争解決手段として契約に定める事項としては、迅速で終局的な仲裁プロセスを好むか、それとも、是正救済メカニズムをより整った訴訟プロセスを好むか、当事者自身がいずれを重視するかの選択によります。
 
3. 標的となる財産価値が低い場合
   紛争となる標的価値が比較的に低い事件では、紛争解決の方式として訴訟を用いれば仲裁よりも必要な費用が安くなります。紛争解決コストを節約するという実用主義的な観点から、このような状況下では訴訟を選択することをお勧めします。
   標的価値が比較的に高い場合には、具体的な状況に応じて検討することをお勧めします。高額の訴訟の場合には必然的に訴訟費用も相応に上昇します。さらに、控訴、再審があればさらに費用が発生します。一方、仲裁費用は、仲裁機関によって異なる料金基準が適用されますので、具体的な状況に応じて必要な費用を評価、決定することが必要になります。
   前編と後編で分析、説明してきたように、商事契約における紛争解決の方式として仲裁と訴訟のいずれを選択すべきかについては、本質的に二つの方法それぞれに具体的なメリットとデメリットがありました。そこで、私たちとしては、契約関係におけるご自身の相対的地位と契約の性質に応じて考慮すべきであると考えます。さらには、取引における最も核心的な利益と最大のリスク(すなわち、最も譲りたくない最低ラインと受け入れられる最大損失)を加味して、総合的な条件を最も適切に解決するプランを選択されるよう提言します。必要があれば専門家の協力を得て全面的は検討と評価を行うことも有効ですのでご検討ください。
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