北京での社会保険の代理納付を規範化 背景と今後

2020. 8. 12

北京での社会保険の代理納付を規範化 背景と今後

   7月30日午後に上海市弁護士協会労働委員会の労働契約・社会保険小組と業務規範化・成果化小組の共催で「社会保険代理の法律リスクとコンプライアンス対応」WEBイベントが開催され、リーグ法律事務所労働コンプライアンス部門の曾立圻弁護士が「北京で規範化された社会保険の代理納付」の背景を紹介しました。その後、多くの関係者から強い関心と問い合わせが寄せられましたので、ここにご参考までに関連情報を以下の通り提供します。

   最近、北京の多くの企業が危惧する出来事があります。それは、北京の社会保険センターが労働派遣企業と人材サービス企業に対して「社会保険の代理納付」の管理を強化し、「社会保険の代理納付」に「死刑宣告」を下したことです。

   ご存知のように、雇用単位は労働者と労働関係を確立し、法に基づき社会保険を納付することが規定されています。すなわち、雇用単位が法律上の「納付単位」ということです。人材サービス市場で見られる社会保険の代理サービスとは本来、第三者が雇用単位に代わって社会保険の納付手続きを行うものですので、代理という性質からも、最終的な法律責任は委託者(雇用単位)が負うものであり、実際の雇用単位が「納付単位」であることに変わりません。

   しかし、今回、北京が「社会保険の代理納付」を規範化したのは、労働関係が存在しない状態で、雇用単位に代わって第三者が社会保険を納付する行為をターゲットにしたものです。納付単位は実際の雇用単位ではなく第三者となります。これは本来意味するところの社会保険の「代理」ではありませんが、実際にはこうした現象はかなり普遍的にみられることで、いままで法律の枠のギリギリを漂うものとして長年にわたって注目されてきたものです。

   7月7日に北京市大興区社会保険センターの公式アカウントで「労働派遣企業と人材サービス企業の増員に関する注意」が示され、「2020年7月5日から労働派遣企業と人材サービス企業はWeb上のプラットフォームや『三保険業務システム』で従業員の新規社会保険登録と増員を行う際に、労働契約に関する情報を補充する必要がある」と要求しました。賃金や期間を定めた労働契約(派遣協議)書、職務内容、実際に雇用する単位の統一社会信用コード番号などを提示することを求めるものです。

   労働派遣や人材サービスの法的性質(社会保険の代理)と「社会保険の代理納付」はまったく異なるものです。しかし、実際に、これまでは多くの労働派遣企業や人材サービス企業が行ってきたサービスは「社会保険の代理納付」で、これら企業にとって、今回の社会保険センターによる労働関連情報の提出要求は、客観的に見ても満足させることが難しく、主観的には望まないものと言えるでしょう。


   もちろん、大興区社会保険センターは気まぐれに注意喚起しているのではなく、5月20日の時点で大興区人力資源・社会保障局が「大興区の社会保険手続をさらに規範化する通知」を実際に公布しており、その通知では、加入者の現状を正確に報告するなどの「5項目」の規定を厳格に順守し、労働関係がない加入や虚偽申請、二重受給などの「5種類」の行為を厳格に禁止すると明示していますので、これに則った注意喚起です。

   厳禁5種のなかで特に、社会保険参加単位が、労働関係がなく、賃金を支給してなく、個人所得税を申告していない人員の社会保険を「代理納付」することと、社会保険待遇を申請、享受することを厳格に禁止するとしています。

   これは大興区に限った要求でしょうか。わたしたちが調べたところ、北京市海淀区も7月17日の政府Webサイトのプレスリリースで「社会保険の社会保険管理サービスの規範化をさらに高め、区社会保険センターの業務手順を直ちに調整し、より多くの社会保険参加単位と個人にさらに優れた社会保険サービスを提供する」と提起しています。ここでいう調整では、主に従業員の増減の理由別(契約満了、自己都合退職、非自己都合退職などの別)、他都市から転入した区内居住者への失業保険給付の適用、労働派遣企業と人材サービス企業での増員、北京転入戸籍者の変更の4類に分けて納付業務を行うことで厳格に管理していくとしています。これは正面を切った積極的なアピールです。


   また、北京の一部地域に限った要求ではなく、北京全市での統一した動きでもあります。公式文書としての確認が取れていませんが、6月30日にWeb上で公表された「北京市社会保険センターによる労働派遣企業と人材サービス企業の社会保険参加での問題についての通知」という文書でも労働派遣企業と人材サーボス企業の「社会保険の代理納付」状況を事前に厳しく管理する目的で7月5日から労働関係書類等の提出を要求しています。

   こうした大きな動きの背後にはもちろんその理由があります。工人日報傘下の「労働午報」(2020年7月14日第9版)で掲載された「北京で8件の典型的な保険詐欺案件」にいくつかの手がかりが伺えます。


案件5:労働関係を偽造した社会保険納付による保険金詐欺 今年2月に北京市公安局の部隊が市医療保障局からの手がかりで朝陽某科技公司の違法行為を捜査し、5月25日、26日に同社の責任者、財務、営業等の部門責任者、及びスタッフ計11人を逮捕した。 調査により、同社は2017年3月から2019年10月まで労働関係が存在しない人員を従業員として延べ3,100人の社会保険費を納付し、社会保険基金から273万元余を受給した。同時に36人が生育手当を違法に申請して98万元余を不正受給した。

処理結果:13人を詐欺罪容疑で拘留。

案例6:虚偽の労働関係で医療費と生育手当を不正受給 2019年8月に北京市公安局の部隊が市医療保障局からの手がかりにより、通州区社会保険センターにおいて某人材サービス企業が違法な手段で生育手当と医療費請求を行ったことが発覚し、4か月の捜査を経て2020年1月7日に責任者らを集団逮捕した。 調査によると、同社は2017年6月以来、インターネット上で社会保険の代理納付する情報を流し、2,800人余の社会保険加入を代理して毎月または毎年代理費を徴収し、そのうち1,400人余が違法に生育手当と生育医療費、基本医療医薬費を受給し、不正受給額は751.1万元に及んだ。被疑者らは警戒心が強く、法人代表を頻繁に変更し、加入者らを市内に合法登記されている17社の中で流動させ、隠ぺい工作を行っていた。

処理結果:6人が詐欺罪容疑で逮捕、継続審理中。

   8件の案件中で上記の案件5と案件6が「社会保険の代理納付」に直接かかわるもので、その人数と金額の規模はともに小さくありません。


   メディアでの逮捕現場の映像は迫力に満ちたものがあります。


   また、「社会保険の代理納付」を禁止しているのは北京だけでもありません。早くも2016年には地方法規である「広東省社会保険基金監督条例」で、「いかなる単位と個人も、虚偽の労働関係により、または偽造証明書等の方法により社会保険への参加及び納付資格を得てはならない」と明確に規定し、かつ、相応の法律責任を定めています。

   中国政府のWebサイトでも2016年にネットショップによる社会保険の不法代理納付に国務院として懸念を示しています。


最近、eコマースのプラフォームでは「社会保険費代理納付」という新しいビジネスが登場していますこのサービスの紹介によれば、毎月数十元の代理手続費を収めるだけで、自宅にいながらネットショップが社会保険費を納付し、たとえ就業単位がなかったとしても所属先をお手伝いしますと喧伝しています。これに対して、人力資源・社会保障部は、双方に労働契約関係がなく、代理会社名義で社会保険を納付することは合法的ではないと明確に提示しています。労働法では、個人は必ず単位で仕事をし、そののちに単位が保険に加入すると規定しており、Web上での社会保険の代理納付は労働法に背くものです

   それにもかかわらず、社会には「社会保険の代理」や「社会保険の代理納付」を行う企業が少なくありません。市場があるということは一定の需要があるということでもあります。今回、北京が一方的に大ナタを振るったことは法律的には問題がありませんが、実際に困難な企業はどうすればよいのでしょうか。


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