労災や交通事故での通院で基本医療保険を誤って使っていませんか?
2026. 5. 27
労災や交通事故での通院で基本医療保険を誤って使っていませんか?

Q:労災や交通事故での通院で基本医療保険を誤って使っていませんか?
A:基本医療保険(医保と略称)は、社会保険制度のひとつです。「社会保険法」第30条第1項では、①労災保険基金から支払われるべき費用、②加害者など第三者が負担すべき費用、③公衆衛生として賄われるべき費用、④海外での医療費、これらはいずれも健康保険の給付対象外であると、明確に定めています。本来であれば労災保険制度や事故の加害者(不法行為責任者)が負うべき医療費を、医保に肩代わりさせない――それがこの規定の根底にある考え方です。限りある財源を、真に必要な場面で適切に活用するための措置といえるでしょう。労災や交通事故による通院で、上記の規定に反して医保を不正に使用した場合は、医保詐欺とみなされます。その悪質性や状況によっては、詐欺罪として刑事責任を問われることにもなりかねません。
1. 労災での治療――医保を不正使用するケース
実務上よく見られるのは、被保険者が労災であることを隠して医保をだまし取るケースです。「社会保険法」では第4章として労災保険制度を専門に定めていて、労災認定の基準・給付内容・基金からの支払いルールが明確に規定されています。さらに「労災保険条例(2010年改正)」第2条では、中国国内にあるすべての事業主(企業・事業単位・社会団体・民間非営利組織・財団法人・法律事務所・会計事務所などの組織と従業員を雇用する個人事業主も含む)が、雇用するすべての従業員のために労災保険料を納付する義務を負い、従業員側はその給付を受ける権利を持つことが、あらためて明確にされています。制度設計の面から見れば、労災認定された治療にかかる医療費はもともと労災保険で全額まかなわれるべきものです。それだけでなく、休業補償・後遺症補償・介護費用など、法律で定められた複数の給付を受けることもできます。医保とは役割と責任の範囲がはっきりと住み分けられていて、それぞれが本来の機能を果たす形で社会保障の仕組みが設計されているのです。
しかし現実には、法的責任を意図的に逃れようとする事業主がいて、これが医保詐欺を誘導する主な要因となっています。中小零細企業や個人事業主の一部には、そもそも法律が定める労災保険に加入していないこともあります。また、労災保険に加入してはいても、労災認定によって自社の安全管理上の問題が露呈し、企業の信用評価や入札資格に影響が出ることを恐れたり、加えて、労災認定後に発生する一時的な障害就業補償金などの追加費用が重なることを忌避したりするケースもあります。これらの事業主は、賠償負担を抑え、行政の監督や信用上のペナルティを回避しようとする思惑から、怪我をした従業員に対して労災の事実を隠すよう意図的に誘導・教唆し、正規の労災認定手続きを断念させて、医保で医療費を請求させようとするのです。
被保険者である従業員にとっても、事業主の指示に盲目的に従うことで、権利の損失と法的リスクという二重の危険が生じます。すなわち、労災保険の給付を自ら放棄することになり、限られた医保の医療費還付しか受けられず、本来認められるべき権益を失います。また、労災であることを意図的に隠し、負傷の経緯を虚偽に作り上げ、「外傷について第三者の責任はない」旨の念書などの虚偽の書類に署名して医保をだまし取ることになり、この行為はすでに保険詐欺にあたります。詐取した金額が刑事罰の基準に達した場合には詐欺罪として処罰されることになります。
実際の事例を見てみましょう。ある案件では、被保険者が就業中に誤って指を機械に巻き込まれて切断するという、明らかに労災に該当する事故が起きました。しかし、勤務先の会社責任者は被保険者の妻に対し、医保の請求に必要な「傷害経緯説明書」を記入する際に労災の事実を意図的に隠し、「自宅で負傷した」と虚偽の内容を記載するよう教唆しました。その結果、医保から約1万8千元余りが不正に支給されました。この件では、被保険者本人・会社責任者・被保険者の妻のいずれもが、虚偽書類の作成と医保の詐取という違法行為に程度の差こそあれ関与したとして、全員が詐欺罪で刑事責任を問われることとなりました。
2.交通事故での治療――医保を不正使用するケース
交通事故における第三者の責任を隠すことも、この種の保険詐欺でよく見られる手口です。責任の分担という原則からすれば、複数の当事者に過失がある交通事故の場合、医保で請求できるのは被保険者自身の過失割合に対応する医療費の部分に限られます。相手方の責任に相当する分は、相手方および保険会社が賠償すべきものであり、医保を流用することは認められません。
実際の事例を見てみましょう。ある案件では、被保険者がオートバイを運転中に、同じ方向を走行していたトラックに追突し、外傷を負って入院しました。交通管理当局の認定では、被保険者がこの事故の主な責任を負うとされました。医保の請求手続きの段階で、被保険者の家族は「保険種別確認書」を記入する際に、第三者にも責任があるという事実を正直に申告しませんでした。その結果、本来であれば第三者が負担すべき医療費の一部が医保から支払われ、6,549.11元の過払いが生じました。この案件が示すように、交通事故が発生した場合、たとえ交通管理当局がすでに過失割合を認定していても、被保険者およびその家族が事故の実態を意図的に隠し、医保の請求時に第三者の責任に関する情報を正しく申告しないことで、本来であれば事故の責任者が按分して負担すべき医療費を、不正に医保から支払わせてしまうケースがあるのです。
実務においてはもうひとつよくあるケースとして、事故の加害者がすでに医療費を支払っているにもかかわらず、被保険者がその事実を隠したまま医保窓口に還付申請を行い、不正に医保をだまし取るというものがあります。いずれの手口であれ、不正な医保の請求が発覚した場合には、不正に受給した金額の全額返還が求められるうえ、罰金の制裁も避けられません。さらに詐取した金額が刑事罰の基準に達していれば、詐欺罪として刑事責任を問われることにもなります。

