エクソソームの医療応用と化粧品原料としての可能性は?
2026. 3. 5
エクソソームの医療応用と化粧品原料としての可能性は?

弁護士 于佳佳
Q:エクソソームの医療応用と化粧品原料としての可能性は?
A:ヒト幹細胞由来のエクソソーム(Exosomes)は、細胞外小胞(extracellular vesicles, EVs)の一種で、幹細胞の培養過程で分泌生成される。幹細胞そのものではないが、細胞間シグナル伝達物質を豊富に含み、組織修復、免疫調節、抗炎症作用の面で活用が期待されている。エクソソームの由来は幹細胞に限らず、現在の研究で特に注目を集めているのは、歯髄、骨髓、脂肪組織、臍帯などに由来するヒト間葉系幹細胞(MSC)のエクソソームである。本稿では、これらの注目される幹細胞エクソソームに焦点を当て、日中両国の規制状況を比較検討する。
1. 日本の法規制
幹細胞培養上清液という概念が日本では一般的に使用されており、エクソソームはその機能的な主要成分である。以下の4つの規制上の特徴がある。
第一に、培養上清液は幹細胞そのものではないが、高品質・高純度の製品を確保するため、厚生労働省が許可した細胞培養加工施設か医療機関と提携したラボでの製造が求められる。
第二に、培養上清液は薬機法で定める再生医療等製品には該当しない。ただし、特定成分を濃縮して錠剤やカプセルにした製品は、品質・有効性・安全性が確認できれば、薬機法に基づく医薬品としての承認申請が可能である。
第三に、再生医療法が規制する細胞や細胞加工物にも該当しないが、実務上、特に美容医療分野では、医師が購入し、患者の同意を得て使用できる。
第四に、医療目的以外に化粧品原料としても使用可能である。ただし「生物由来原料基準(平成15年厚生労働省告示第210号)」で定める「人由来製品原料」の特別要件を厳守し、広告表示などでも厳格な規制に従う必要がある。
2. 中国の法規制
中国法では、医療目的での使用と化粧品原料としての使用について区別して議論がなされている。
第一に、国の政策文書及び医薬品行政部門が最近公表した先進治療薬品に関するパブリックコメント案において、幹細胞エクソソームの医療目的での使用が認められている。
2021年、国家発展改革委員会は「第14次五カ年生物経済発展計画」を公表し、「革新的医薬品の承認審査の迅速化及び市販後管理の強化を目指し、医薬品規制科学研究拠点を設立し、…、幹細胞・細胞免疫療法製品、遺伝子治療製品、エクソソーム治療製品、…などの品質・安全性評価技術プラットフォームを構築する」と明記した。これは国の公式文書で初めて「エクソソーム治療製品」という概念が明示されたものである。
2025年6月10日、国家薬品監督管理局は「先進治療薬品の範囲、分類及び解釈(意見募集案)」を公表し、先進治療薬品(ATMP)の概念を提示した。細胞治療薬と遺伝子治療薬に加え、「その他」として5分類の薬品が列記され、この中の「新規デリバリーシステム医薬品」と「細胞由来医薬品」にエクソソーム治療製品が含まれることとなった。この意見募集案は正式公表には至っていないものの、中国がエクソソーム治療製品を先進治療薬品として位置付ける重要なシグナルとされている。
2026年1月27日、国家薬品監督管理局は「細胞治療薬の製剤学的変更研究と評価に関する技術指針(意見募集案)」を公表し、「細胞外小胞などの細胞由来製品…等の細胞関連の製剤学的変更研究」にも本指針が適用されることを明記した。
地方レベルの政策文書においては、例えば西安市政府が公表した「生物医薬産業の能力向上を促進する実施計画(2025-2027年)」において、企業による幹細胞エクソソーム医薬品などの革新的医薬品の研究開発を支援するとしている。
第二に、エクソソームの化粧品原料としての使用については、中国の規制当局は人由来物質の化粧品への使用に慎重な姿勢を従来から示している。
国家薬品監督管理局が2025年6月23日に公表した最新版「使用認可済化粧品原料目録」においても、「ヒト由来エクソソーム」「ヒト由来細胞外小胞」などの関連原料は収載されていない。中国には化粧品新原料の登録・届出制度が存在するものの、これに適用されるのは2015年版「化粧品安全技術規範」である。同規範の化粧品禁止・制限成分要件における「化粧品禁止成分(表1)」第390条では、「ヒトの細胞、組織またはヒト由来製品」の化粧品原料としての使用を明確に禁止している。
注目すべきは、国家薬品監督管理局総合司が2025年12月24日に公表した「化粧品新原料登録届出資料管理規定(改訂案意見募集稿)」である。同案の第14条「試験方法」では原則として「新原料の毒性学及びヒト安全性試験は一般的に『化粧品安全技術規範』に規定された試験方法に従って実施すべき」とし、「『化粧品安全技術規範』にて方法が規定されていない項目については、中国の他の国家標準または国際的に通用している方法で試験を行うことができる」とも述べている。しかし、現行の2015年版「化粧品安全技術規範」で明確に禁止されている化粧品原料について、「方法が規定されていない項目」として試験を実施できるかどうかは依然として不明確である。
本稿執筆時点において、現状を踏まえると、ヒト由来エクソソーム及び類似物質を化粧品原料として使用できる法的根拠はないと言うことになる。市場において、エクソソームまたはその関連概念を用いた化粧品のいかなる宣伝広告も「広告法」と「化粧品表示管理弁法」等の法規に違反していることになる。
エクソソーム治療製品などの細胞治療関連製品が中国で徐々に法的な位置付けを得ていく中、化粧品原料としての応用分野でも新たな展開が見られるかどうか、我々としては引き続き関連法規の改正動向を注視していきたい。

