訴訟?それとも仲裁?商事紛争の解決方法(前編)
2024. 3. 21
訴訟?それとも仲裁?商事紛争の解決方法(前編)

Q:商事契約で約定する紛争解決手段は、訴訟と仲裁のどちらが適しているか?
A:商事に関する法律関係を調整する民事紛争事件を指す商事紛争において、実務上よくみられる解決方法として訴訟と仲裁がありますが、いずれを選択するかの判断により事件の最終結果は異なる影響を受けます。商事契約における紛争解決手段として仲裁を優先的に適用するか、それとも、訴訟を優先的に適用するかについて、本文では、それぞれのルール、メリットとデメリットを、私たちの経験を加味しながら整理して分析を試みます。まずは、本テーマの前編として、商事契約の紛争解決手段として仲裁を優先的に使用することを推奨するケースについて説明します。
仲裁を優先的に選択する場合
1. 秘密情報に抵触するなど公開を避けたい契約や取引
裁判所が発効した裁判文書を一般公開する裁判文書ネットが2023年以降に一般に公開されなくなったと一時的に騒がれていましたが、現在、裁判文書ネットは正常に使用できます。最高人民法院の関係部門の責任者も最近の公開インタビューで裁判文書ネットは引き続き機能していると述べていますので、裁判所の裁判文書は今後もしばらくの間、原則として社会に公開されるという取り扱いが続いていきます。これに対し、仲裁では審理の非公開を原則としているため、仲裁手続がどのような方法で終結したとしても、仲裁判断書が外部に公開されることはないと少なくとも保証されています。そのため、事案が裁判所の強制執行手続に移行しないかぎり(もしも強制執行手続に入った場合には仲裁判断書は公示されます)、いかなる公的ルートや第三者ルートを通じても、事件に関する情報は入手できず、社会公衆と事案の当事者との間が壁で分離されます。企業の商業的信用を保護することや将来的な融資を考慮するなどの観点に立てば、これらの契約においては、紛争解決手段を仲裁によると約定する一定の意義があります。具体的には主に以下のいくつかのタイプの争いが該当します。
- 技術上の秘密に関する契約(技術秘密譲渡契約、技術開発契約など)における争議。
- 商業経営情報に関する契約(フランチャイズ契約、持分譲渡契約など)における争議。
- 紛争の当事者が、企業または個人の名声やイメージ、またはビジネス戦略面からの配慮により、関連する紛争が公開審理されたり、裁判所により判決文として開示されたりすることを望まないとき。
2. 特定の専門分野に関わる内容の契約や取引
実務上では、高い専門性を備えた取引であるために、その取引を理解し、法律を適用するうえで、専門的内容の理解度に大きく左右される契約があります。例えば、複雑な構造を有する金融商品に関わる場合や、複雑なプロセスを持つ製品の発明製造に関わる場合などです。このため、当事者は、紛争解決の質と効果を保証するために、契約において、紛争が発生した場合には仲裁の管轄とし、かつ、一定の実務年数があり、当該特定分野の専門知識を有する仲裁員が仲裁に参加しなければならないと事前に約定しておくことができます。これに対して、訴訟を紛争解決の手段とすると、客観的に見ても、特定の専門分野に関する契約や取引について、実際に管轄する裁判所がその分野で十分な経験を備えていないという可能性を否定できません。その結果、裁判は一定の普遍性を持つ裁判経験とテクニカルに基づいて展開され、専門分野のコントロールにおいて裁判所の判決に偏りや不備が生じる可能性が高くなります。たとえ訴訟において専門家の意見を取り入れる形式が採用できて裁判所に専門意見を提出できたとしても、その方法が実際の操作において、理想的な効果を得られるかどうかについては多くの不確実性があります。例えば、専門家の意見書を作成したとしても、最終的には裁判所がそれを客観的な根拠と認定できないと判断し、「法定証拠に属さない」とされてしまうリスクがあります。
3. 最終的に外国で執行される可能性がある契約や取引
現在、中国の裁判所が下す民事、商事判決を他国でも普遍的に執行するための根拠となる国際条約はありません。中国は87カ国との間で二国間の司法協力協定を締結していますが、数が限られており、そのうち、韓国、シンガポール、タイと締結している条約または協定では裁判所判決の承認と執行が含まれていません。これに対して、仲裁の分野においては1958年に公布された「外国仲裁判断の承認と執行に関する公約」に現在169カ国が加盟し、仲裁判断に世界的な執行可能性が賦与されています。中国も1987年に加入しています。このことは、基本的な条件を満たす仲裁判断は他の条約加盟国の司法体系でも認められ、執行されることを意味します。
中国における外国の仲裁判断の承認と執行の申請については、私たちが提供してきた法律サービスの経験に基づけば、申立者が中国の関連する法律法規の要求に基づいて合法かつ有効で完備した証明資料を提供し、証拠の整合性が取れてさえすれば、中国の裁判所は形式審査(実質審査ではない)により提供された証拠資料が中国が外国の仲裁判断を承認し、執行する際の要求を満たしていると判断したのちに、かなり高い確率で、外国の仲裁判断が中国で最終的に承認され、執行されます。これに対して、外国の裁判所の判決を中国の裁判所で承認、執行するには、より煩雑な手続きと厳格な手順に向き合うことになります。
したがって、契約や取引に関わる紛争が将来的に国外で執行される可能性がある場合には、契約において特定の仲裁機関を紛争解決の方式として約定しておけば、裁判所で民事、商事判決を得るよりも効率的に執行の効果が得られ、権利を主張する側の利益が最大限に実現できます。