事例分析 | 社会保険に加入しない契約は有効か

2021. 4. 8

事例分析 | 社会保険に加入しない契約は有効か


【事例紹介】
   戴さんは2017年6月1日入社、2017年10月1日から2018年10月1日までの労働契約を締結したが、2018年11月30日双方の労働関係は終了した。2017年10月1日、戴さんは社会保険について、会社が毎月の社会保険料額を毎月の給料と同時に支給することを条件に社会保険に加入しないとの合意書に署名した。2018年12月、戴さんは社会保険の未加入期間の保険料の追納を会社に請求したうえ、労働監察部門に通報した。会社は2017年6月から9月までの社会保険料を追納したが、その後の分については戴さんに支給した社会保険料額が返還されていないとし納付を拒否していた。

【処理結果】
   署名した社会保険不加入の合意書は社会保険料の強制規定に違反しているため無効である。会社は社会保険料を追納したうえ、戴さんは受け取った社会保険料額を返却すること。
【事例コメント】
一、社会保険に加入しない契約は有効か?
   無効である。「中華人民共和国労働法」第72条によれば、使用者及び労働者は、法により社会保険に加入し、社会保険料を納付しなければならない。社会保険料を納付することは、使用者と労働者との法定義務であり、社会保険に加入しないとの契約は、法律の強制規定に違反しており無効である。したがって、労働者が後悔した場合、使用者は契約を抗弁理由として使用することができません。言い換えれば、契約が労働者の真実の意思表示であっても、労働者は翻意して、使用者に社会保険料の追納を請求することは法的に認められている。
二、社会保険に加入しない代わりに社会保険料を従業員に支給できる?
   できない。上述したように、社会保険料の支払は使用者と労働者との義務であり、この強制規定に違反すれば最初から無効である。本件では、戴さんが署名した社会保険不加入の合意書は法律の強制規定に違反しているため、無効とみなされる。したがって、社会保険を納付するかどうかは、使用者が労働者の意思によって左右されることではなく、社会保険料の未納自体が違法行為である。
三、社会保険料の未納に使用者がどんな責任を負うか?
   まず、使用者が社会保険を納付しない場合、罰金、滞納金等の行政責任を負うことになる。具体的には、「社会保険法」第84条に基づき、使用者が社会保険登記をしない場合、社会保険行政部門が期限を定めて是正を命じる。期限を過ぎても是正しないときは、使用者を納付すべき社会保険料の金額の1倍以上3倍以下の過料に処し、その直接責任を負う主管者及びその他の直接責任者を500元以上3000元以下の過料に処する。「社会保険法」第86条に基づき、使用者が期日及び金額通りに社会保険料を納付しなかった場合、社会保険料徴収機構が期限を定めて納付又は補充を命じ、かつ滞納した日から、一日につき一万分の五の滞納金を加算徴収する。期限を過ぎても納付しなかった場合、関連行政部門が滞納金金額の一倍以上三倍以下の過料に処する。
   次に、使用者は、「中華人民共和国労働法」第72条に基づき、社会保険料の使用者負担分を追納する必要がある。労災の場合、使用者は労災保険の待遇に応じて、労働者の医療費などの費用を支払わなければならない。また、障害が残れば、障害手当を支払わなければならない。女性従業員の出産、流産にかかる医療費及び産休産手当も負担する必要がある。
   行政責任だけではなく、「社会保険分野における重大な信用喪失企業及びその関係者に対する共同懲戒実施に関する協力覚書」(発改財金〔2018〕1704号)によれば、使用者が社会保険に加入していないことで、「信用喪失者リスト」に記載されている場合、信用喪失企業として重点監督対象とされることがある。更に重点監督対象に対する監督検査と監査の回数が増加することになる。社会保険の違法行為が再度発生した場合、公示期限が延長されることになる。信用喪失企業は財政補助資金と社会保障資金、政府調達へのアクセスを制限されることになる。

   以上のように、社会保険を納付することは使用者の義務であり、使用者は自分の法律責任を十分に理解し、全額を適時に労働者のために社会保険料を納付しなければならない。労働者が社会保険料を支払わない場合には、速やかに予防措置を講じることが必要である。


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